インターネットのように成果物が物(ブツ)ではなく無形の成果物だと、SLA(Service Level Agreement)というしっかりした約束事が大事になる。最近では印刷業界でも契約の際にSLAが重要視されだしている。
印刷業界の契約は、昔に比べれば厳格にはなってきたが、まだまだ慣習というか、信義的な意味合いが強い。例えば校正回数は三回までが契約に含まれ、それ以上は実費をいただくということが契約書には明記されているのだが、実際にはズルズルということが未だに多いと思う。本当に金額を請求したら「これまでの良い付き合いが台無しになってしまう」とか、「せっかく築いてきた関係が崩れてしまう」という感じだ。
しかし、そういうところにつけ込んで(言い方は良くないが、意識的にやっているところも否めない)、しっかりした契約書を作成して、特にSLAとそのサービス内容を明記して、保証範囲を明確にすることが、外資のプリントマネジメント会社の営業政策として始まり、その結果、大きな額の契約を成功させている。
そんな切り口で日本に攻めてきたプリントマネジメント会社の代表にHH Globalがある。成約したクライアントが世界的企業の製薬会社ということであり、確かにこの手の会社(世界的な企業)、具体的にはこの手の会社に勤めるスタッフ(国際感覚を持った新しいタイプの日本人)に、昔ながらの「信義」とか「慣習」を持ち出しても通じないだろう。SLAをきっちり決めてその内容でしっかり約束レベルを遂行すれば、それこそインターネット時代の「新信義」と言えるのだ。
SLA(Service Level Agreement)とはサービスを提供事業者とその利用者の間で結ばれるサービスのレベル(定義、範囲、内容、達成目標等)に関する合意サービス水準、サービス品質保証などと訳される。
HH Globalは英国のプリントマネジメント会社だが、SLAを主たる武器に欧州、米国、オセアニア、東南アジアと成功してきたが、HH Globalの主たる差別化ポイントが、原材料や輸送コストを落とすだけの単なる価格ではなく、受発注システムのプラットフォーム化や生産工程のシステム化にあるため、クライアント獲得には、HH Globalが長年培ってきたプラットフォームシステムとSLAが大きな力を発揮するのだ。
そういうことを理解し、そういう営業アプローチしか信用しない顧客が、この日本でも急速に増えているのは事実で、そういう顧客に対して一番威力を発揮するのがSLAなのだ。提供できるサービスを文書でハッキリさせて、そのレベルを遵守するのだ。
HH Globalは欧米から成功して、東南アジア、そして極東へ営業範囲を広げてきたのだが、その司令官(昔だったらペリー?)であるBradford Bradford Owen氏をpage2017カンファレンス講師として招いている。 Owen氏の生の声を聞いて「印刷会社としてのSLAとはどういうことなのか?」を考えてみるのも良い勉強になると思う。
Owen氏の登壇するカンファレンスは、【G1】プリントマネジメントに学ぶ顧客との新たな関係~コストダウンの鍵は顧客との取引条件と厳格な運用にある!である。大きな実績を残しているプリントマネジメント会社でもあるので、お役立ちのポイントは満載である。
また、一方的にHH Globalサイドの話だけ聞くのではなく、プリントマネジメント会社と印刷会社がコラボして業績を上げるというのも、印刷会社の一つの営業施策と言える。そんな観点に立っての語り部として、リデザインCEOの土屋文人氏にも登壇いただく。
今までプリントマネジメント会社を目の敵にしてきた印刷会社にとっても、プリントマネジメント会社から学ぶことは少なくないはずだ。SLAに始まって、もしかしたら印刷業は生産に特化して、プリントマネジメント会社に営業を任せてしまい、営業コストを抑えられるのだったら、プラマイ計りにかけて、プラスの方が大きくなるとも言えるのだ。
印刷バイヤーとして、今回はMcCann Ericsonにも登壇いただき、「なぜ大企業はプリントマネジメント会社に発注するのか?」そのポイントを語って頂く。正直な話、英国では上場会社のかなりのパーセントがプリントマネジメント会社を使って印刷を発注しているのだ。
そこにはそれだけの理由があるわけで、もしも良いプリントマネジメント会社と組めば、印刷会社の規模が小さくても、ナショナルクライアントからの仕事だって夢ではないということである。
(JAGAT専務理事 郡司秀明)