ニュースメディアにできること

掲載日:2018年1月22日

ニュースの価値はアルゴリズムが決めるものではない。独自取材した「読んでもらいたい記事」をどう読者に届けるか、読んでもらうかを考える必要がある。 (本記事は2017年4月公開記事の再掲です)

硬派なニュースが読まれなくなっている

東洋経済オンラインは、2016年夏に「硬派なニュース、もっと読もう」というキャンペーンを行った。
PVを重視するなら、世の中の話題に追随した「読まれる記事」を並べることになるが、それでは独自取材した「読んでもらいたい記事」がますます読まれなくなる。ネットで社会問題を取り上げると、1本の記事でバランスを取るのは困難だが、東洋経済オンラインとしては、自分たちの視点で新しい柱を打ち立てていく必要性を感じている。

硬派な記事が読まれなくなった背景には、キュレーションサイトやポータルサイトの記事の出し方がある。ネットでニュースを見ていると、関連ニュースが立ち上がってくる。便利ではあるが、さして重要でもないニュースを深掘りしたり、自分が引っ掛かったキーワードではないキーワードに導かれてしまうこともある。

藤代裕之著『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』では、不確実な情報、非科学的な情報、偽(フェイク)ニュースを生み出す構造を明らかにした上で、ニュースメディアの戦略などを分析している。
スマホでニュースを読むと「見たいニュースが次々と出てきて、あっという間に時間がたってしまう」という学生に対して「この、気持ちよさはアルゴリズムによってもたらされている」として、「活動家イーライ・パリサーは、アルゴリズムにより、自分にとって都合のよい興味・関心を持つ情報の膜に包まれる状況をフィルターバブルと呼んだ。私たちも知らない間に、偽ニュースの膜に包まれているかもしれないのだ」と警鐘を鳴らしている。

新聞記事は見出しや紙面の大きさで重要度を伝えてきた。一面か社会面かという違いもある。速報性を重視するヘッドラインニュースからは重要度は読み取れない。さらにアルゴリズムでニュースを選ぶニュースサイトでは、世の中の関心事がニュースの価値を決めるようになる。その結果、SNSでシェアされやすいニュースが上位にきて、硬派なニュースがますます読まれなくなっている。

独自取材した経済関連記事を中心としたニュースプラットフォーム

国内ビジネス情報サイトNo.1の東洋経済オンラインは、月間PV2億、2000万人を超える読者をもつ(2017年4月現在)。山田俊浩編集長は「独自取材した経済関連記事を中心としたニュースプラットフォーム」と位置付け、ニュースの内容に責任をもつメディアであることを明確にしている。フェイクニュースやまとめサイトなど、ネットニュースの信頼性が揺らいでいる状況下で、ネットから取ってきた記事に論評を数行加えるような“ニュースサイト”とは全く違うものだということだ。

『週刊東洋経済』のWeb版ではなく、東洋経済新報社サイトとして、企業分析、最新テクノロジー、キャリア・教育など幅広いジャンルの記事・コラムを経済的な視点で取り上げ、「経済ニュースの新基準」を標榜している。読者にとってわかりやすいサイトであることを目指し、ID登録不要で全記事を無制限で公開している。

コストの掛かる一次取材メディアの凋落は著しいが、WELQ問題などの余波で、コンテンツの品質を上げるために、校正や安全策に投資することが認められるようになった。調査報道メディア「ワセダクロニクル」が2017年2月から活動を開始するなど、硬派なニュースを自前で取材するネットメディアも現れた。

山田編集長が編集長に就任した2014年7月時点では、パソコンとスマホの閲読率は半々だったが、現在ではスマホが80%を超える。モバイルシフトが進む中で、「硬派なニュース、もっと読もう」という志がますます重要になるのではないか。

(JAGAT 吉村マチ子)

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