【第21期:ローカル線鉄道事業】クロスメディアエキスパート 記述試験
状況設定について
あなたは、首都圏にある中堅総合印刷会社のX社に勤務するクロスメディアエキスパートである。X社は、商業印刷物やDVD-ROMの制作、Webサイトの構築・運用などのサービスを顧客企業に提供している。X社にはデザイン専門の系列子会社があり、グループ総従業員数は100名である。
A社提案プロジェクトについて
第三セクター方式であるローカル線の鉄道事業を展開するA社は、X社が過去に取引を行った顧客企業である。X社は、同社Webサイトの一部を手がけた実績もある。
営業担当者より、「A社は、顧客との新しいコミュニケーション戦略の検討をしている。」との報告があった。X社は、営業部門や企画部門、制作部門に所属する数名で、A社提案プロジェクトを立ち上げた。
クロスメディアエキスパートであるあなたは、本プロジェクトのリーダーに任命された。X社は、本プロジェクトにて提案書を作成し、2016年3月20日にA社へ提出する予定である。
面談ヒアリングについて
A社について調査をすすめていった結果、X社の競合企業がインターネットやモバイル端末を活用した提案を行う準備をしているとの情報が入った。
X社は、営業担当者が中心となり、社長と販促担当者に面談ヒアリング(※面談ヒアリング報告書参照)を実施した。A社は、コミュニケーション戦略を立案するにあたり、社外からの優れた提案を取り入れ、実施を検討する方針である。
A社面談ヒアリング報告書
概要:A社からの提案依頼に伴う、ヒアリング調査 日時:2016年3月15日 10時~12時 対応者:木部社長、鈴木広報室長 内容:下記に記載
1.提案へ向けて
A社は、沿線自治体の出資が中心となり運営される第三セクター方式のローカル線を千葉県いすみ郡で展開している。事業所は本部のほか、15駅が運営されている。創業当時は慢性的な赤字経営が続いたものの、「あたらしい取り組みを行う」といった強いこだわりが支持され、黒字に転化した後の業績は順調に推移していた。しかしながら、少子高齢化や生活者の嗜好が多様化したことが起因し、業績の伸びが鈍化している。
A社はさらなる業績の向上を目指し、商品の内容を見直しあらたな取り組みを行うことで、顧客にさまざまな商品を相互に利用してもらう活動を実施している。
A社の理念を共有できる地域やスタッフと連携し、「地域を支え発展する観光鉄道」をコンセプトとした各拠点を「交流といこいの場」として位置づけ、他の観光業と差別化を図るアプローチ方法を検討している。
A社は顧客とのコミュニケーション手法を確立し、それに伴うコンテンツやメディア展開案を求めており、顧客との関係性を重視したプロモーションの実現を模索している。
2.施策の運営と実施効果測定
- 週単位でメディア展開の実績を確認したい
- 可能な範囲でメディア利用者のレスポンスを管理したい
- A社の担当者は、本部広報室を中心に2名を予定
3.想定予算
- 印刷物作成費、ハードウェア、ソフトウェア、開発費などで、総額2,000万円以内を想定
4.施策の実施期間
- 6月1日に施策開始、12月31日までを第1フェーズとして予定している
- お盆や年末年始のほか、ゴールデンウィークが繁忙期となるため、コミュニケーション施策は、業務のピークを考慮したものとしたい
5.創業について
- A社が運営するかずさ鉄道線は、日本国有鉄道特定地方交通線の1つだったローカル線の木原線を引き継いだ鉄道路線である
- 上総笹塚駅で接続するみなと鉄道線とあわせ、房総半島横断線を形成する、約30kmのローカル線である
- 開業当時から、沿線は人口希薄地帯で輸送量は少なかった
- 1981年に国鉄再建法施行により第1次特定地方交通線に指定され、1987年に東日本旅客鉄道に承継し、1988年に第三セクター方式のかずさ鉄道としてA社に転換された
- A社の経営は開業以来、慢性的な赤字に悩まされ続けており、存続の危機に瀕していた
6.ローカル線の市場について
- ローカル線は沿線地域の人口減少やモータリゼーションの進展に伴い、旅客数が減少する傾向がある
- 特に高校生を中心とした学生による定期旅客数の落ち込みが激しい
- 定期外旅客数についても、増加したのは一部の鉄道だけであり、ほとんどの路線は減少している
- 定期旅客の獲得は容易でなく、将来的には定期外旅客の割合が相対的に高くなることが予想されている
- 地域鉄道を観光資源化する事業者が多い
- 鉄道ファンや地域の民間企業からの会費を収入源としている場合もある
- 景観の魅力や経営状況が影響し、観光列車の導入や維持が難しいことがある
- 都会で生活する人々が「憧れ」から、ローカル線が流行する兆しもある
7.木部社長の就任と経営について
- 木原線が第三セクター化されて以降、長年に渡りかずさ鉄道は赤字経営が続いており、2006年度で約1億3,000万円の赤字であった
- 「かずさ鉄道再生会議」では、「2008年からの2年間は収支検証期間として鉄道を存続させるが、2009年度決算においても収支改善見込みが立たない場合、鉄道の廃止を検討する」ことを取り決めた
- 経営立て直しのために社長を一般公募し、2008年4月にバス会社海浜交通社長の谷川 楽一が社長に就任した
- 谷川社長の辞任により、再公募で125名から木部 英里が選出され、2009年6月にA社の社長に就任した
- 木部社長は、国鉄への入社を志望していたが分割民営化により新規採用がなく、アジア航空に入社した
- 30歳の時にはルフトハンザ・エアウェイズに入社し、32歳の時に副業として鉄道の運転席から撮影した映像を販売する有限会社ベストシートを設立した
- 木部社長は旅客運航部長として運航業務や旅客サービス業務に携わり、徹底した経費削減を行ってきた点が評価され、A社の社長に選出された
8.立地とメディア活用について
- 沿線住民は3万人以下であり、「鉄道に乗って目的地に行く」といった、鉄道の持つ本来の役目で存在し続けるには難しい地域である
- 本社がある多喜町の人口は、10年で半分の10,000人まで減少した
- 羽田空港からアクアラインや圏央道を利用することで、かずさ鉄道が走る地域まで約50分で訪れることができる
- 田園と山中の沿線であるため、海岸線や富士山などといった定番の景色がない
- 旅行客の中には、「せっかく来たのに何もない」と憤慨する人もいる
- コーポレートサイトでは、主にアクセス方法と沿線情報、運賃情報、グッズ情報、会社情報を掲載している
- 独自のECサイトでは土産品のほか、枕木にメッセージプレートを付けることができる「枕木オーナー」の権利を年額6,000円(税別)で販売し人気を集めている
- 木部社長は、2009年からブログを続けている
9.経営再建について
- 2009年10月には、特に30~50代の女性から多く支持を集める1980年代から放映されている人気アニメ「クジラン」をあしらった「クジラン列車」の運行を開始した
- 「クジラン列車」は、従来の車体にキャラクターのシールを貼っただけのものであった
- 多くのマスメディアからローカル線特集の取材が入り、費用をかけず生活者へかずさ鉄道を訴求することに成功した
- この企画により、かずさ鉄道は20~50代で構成される女性客の取り込みに成功した
- あたらしい取り組みにより、「鉄道女子」を増やす結果となった
- この成功によりかずさ鉄道の存続に向けた道筋が見え、ディーゼル列車である「キハ52形」を導入した
- 昭和の風景が残る沿線に対し、昭和のディーゼル列車を走らせることは、特徴的な取り組みとなった
- 努力の結果、経営状態の回復が認められ、2010年8月にかずさ鉄道の存続が決定した
- 現在では、「地域の生活者から、かずさ鉄道を残してよかったと言ってもらうこと」を重要視し、有名人が取材で訪れたときには、必ず地域の生活者と写真を撮ってもらえるよう条件を提示している
10.今後のイベントについて
- 2016年7月には、土日祝日限定で羽田空港から多喜駅までの直行バスによるツアーを実施する
- バスツアーは、A社企画実施の旅行商品として発売し、首都圏各地及び全国各地からの新たな集客手段として運行する予定である
- 2016年8月中旬には、昭和の風景を再現したイベントを実施する
- 昭和に活躍していた「オート三輪」や「ボンネットバス」「クラシックカー」を一般の生活者から集め、かずさ鉄道と一緒に写真撮影するイベントである
- 2016年10月には地域の生活者が企画した、「フォークソング列車」や「ジャズ列車」「ウエディング列車」なども実現する予定である
11.競合について
- B社が経営するエボシ電鉄は、神奈川県の湘南地域で展開しており、非常に人気がある
- 地域の旅館業や娯楽業より構成される「一般社団法人 エボシ電鉄応援団」があり、独自イベントのほか美化活動、地域の他種団体との協調活動を行っている
- エボシ電鉄応援団では、Facebookページを展開しており、約3,000人のユーザーをかかえ、コミュニケーションが活発に行われている
- 売店業の売上増進とエボシ電鉄集客促進のため、B社商品を東京都内で購入できる店舗として、2016年3月に「エボシ電鉄 シーサイド本舗」を東京スカイツリーのある押上に開店した
- 「シーサイド本舗」の開店に合わせ発表された、ゆるキャラ「エボシー」は、20~40代の女性から大きな支持を得ている
- エボシ電鉄の知名度とB社潤沢な資金を活かし、首都圏のキー局を中心に、「エボシー」を採用したテレビCMを発信することで観光客を集めようとしている
12.今後の方針について
- かずさ鉄道は、乗車すること自体が目的となる「観光鉄道」を目指している
- ローカル線は万人受けする必要はなく、架線も柱もない田園風景を「かわいい列車」や「昭和の列車」が走っている風景をたのしみに来る生活者を対象にしたいと考えている
- 「いい風景だ」「すばらしいところだ」と観光客が写真撮影している光景を地域の生活者が知ることで、誇りを持ってもらいたい
- 企業として利益を出すだけではなく、単なる地域の足となることでもない
- 販路拡大のため、団体やグループへ対する貸し切り運行の販売活動に力を入れたい
- 獲得した女性客の定着を前提に、都会に住む定年退職後のシニアも平日の顧客としたい
- 上記対象顧客に対し、実施予定のイベントを効果的に訴求したい
- 2020年に実施される東京オリンピックまでに、外国人対応の準備をすすめるうえで、必要な情報を収集したい
- 地域を活性化し、体験や思い出からゆたかな感情をもつ人間を育てることが使命であると考えている
以上
A社の概要
法人名:株式会社A 設立:昭和62(1987)年 従業員:30名 資本金:270百万円 収入:150百万円(2015年3月期) 所在地:千葉県いすみ郡多喜町 役員:代表取締役 木部 英里 専務取締役 堺 結衣 常務取締役 渡辺 友和 事業:鉄道事業運営、旅行業、小売業、広告業 駅数:15駅
企業沿革
1987年:株式会社A設立 1988年:営業開始 1998年:多喜駅が関東の駅百選として運輸省(当時)関東運輸局から選定 2009年:木部 英里が代表取締役に就任
経営理念
地域の発展を支え、長所を伸ばすことで、お客様に「いこいの場」を提供することで、人間形成に寄与する。
社長プロフィール
木部 英里(きべ えいり) 昭和63年にM大学商学部を卒業。 平成21年に代表取締役就任。 かずさ鉄道における「あたらしい取り組み」を推進。 モットーは「振り返るより前を見る」。 趣味は、ツーリング、鉄道撮影、手品。
A社損益計算書(2013年度、2014年度)
2013年度2014年度
売上高 | 220,000 | 230,000 |
売上原価 | 330,000 | 330,000 |
売上総利益 | ▲110,000 | ▲100,000 |
販売費・一般管理費 | 48,000 | 50,000 |
営業利益 | ▲158,000< | ▲150,000 |
営業外収入 | 180,000 | 180,000 |
営業外費用 | 9,000 | 8,000 |
経常利益 | 9,000 | 22,000 |
設問
問1 A社の顧客コミュニケーションにおける課題を3つ記述しなさい。
・課題1:
・課題2:
・課題3:
問2 問1の課題解決に向け、A社へ提出する提案書に記載する施策について記述しなさい。
・施策の想定ターゲット顧客
・コンテンツやコミュニケーション施策
・施策で使用するメディアと選定理由
問3 A社へ提出する提案書のタイトル、提案の主旨(特徴)を記述しなさい。
・提案書のタイトル
・提案の主旨(特徴)
問4 A社へ提出する提案書をクロスメディアエキスパートとして記述しなさい。【記述形式:A4・横書き・3枚】