デザイナーの仕事は情報を形にすることだ。だから情報の基本である言葉を大切にしている。良いデザインには、魅力的な言葉が不可欠だ。
デザインとは情報の視覚化である。製品やサービス、イベント、出版など、企業が行う事業の内容と魅力を、そして時には企業理念までを、目に見えて、伝わりやすい形で表現することである。
だからデザイナーは、情報を構成する言葉を重視する。仕事の依頼を受けたデザイナーは、まず初めにクライアントへのヒアリングを行い、企業と事業への理解を深めながら、訴求ポイントとなる言葉を拾い出す。
どんなに発想や造形に長けたデザイナーであっても、クライアントから十分な情報が得られないところでは、効果的なデザインを生み出すことができないのだ。
しかし言葉の重要性は、必ずしもクライアントに理解されていない。
例えばデザイン発注の担当者が、従来のチラシをリニューアルしたいと思った時、デザイナーに対して既存のチラシを提示し「こんなイメージで」などという頼み方をしていないだろうか。
既存のデザインは、最低押さえておかなければならない仕様や要素の参考にはなるけれども、時には自由な発想の妨げにもなる。
イメージを作るのはデザイナーの仕事だ。
発注担当者の仕事は、視覚化の材料となる情報をできるだけ多く提供することである。
具体的には、対象事業を語る言葉をたくさん用意することだ。
情報伝達の基本である5W1Hを元に、必要な要素をあげる。
Who(だれが)
自社の企業概要とともに理念・ビジョンを語ろう。
what(何を)
事業の内容と特徴を語ろう。事業の名称はデザインのタイトルとなる。目的がはっきりわかるタイトルかどうか、また視覚化された時にどう見えるかまで考えてほしい。また、的確なサブタイトルやキャッチコピーも重要だ。
When(いつ)
製品であれば発売日、イベントであれば開催期間、開催時間、そのほか受付期間、事業開始までのスケジュールなどを伝えよう。
Where(どこで)
販売・開催・受付などの場所、ECサイトの情報など。
Why(なぜ)
事業の目的、ビジョンなど、デザインコンセプトを考える上で最も大事な要素だ。
How(どのように)
事業の規模、手法。また価格、仕様、申し込み要項、問い合わせ先など、消費者がアクションを起こすために必要な要素を押さえよう。
そのほか、6W2Hで追加される要素もあげる。
Whom(誰に)
訴求対象が誰であるかによって、デザインの考え方は変わる。対象となる層、人数、既存顧客なのか、新規であるかなどを明確に伝えよう。
How much(いくら)
事業の数量、予算、単価など。
事業についての情報とともに、デザインする媒体の作成意図、仕様、部数、配布先や掲示場所、納期、予算なども正確に伝えよう。
デザイン発注者は以上の要素を踏まえながら、事業の魅力と展望を、心に響く言葉で語ってほしい。魅力的な事業であれば、きっと豊かな言葉が見つかるはずだ。
そして、まずはデザイナーに自社のファンになってもらおう。クライアントへの共感こそがデザイナーの原動力なのだ。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)