【マスター郡司のキーワード解説】ChatGPT(その弐)

掲載日:2023年7月27日

本欄ではChatGPTについて三部作でお届けしようと思っていたのだが、本誌の他の記事やその他業界誌でもChatGPTが取り上げられており、ウェブにも掲載されている話を皆さんが書かれている。そのため、少々「食傷気味かな?」と考え直し、私自身も嫌気が差してしまったので、今回は皆さんが話題にされていないことについて解説し、小休止してから再度取り上げてみようと考えている。

画像も文章もたやすく生成

さて、生成AIのすごいところは、写真というか絵というか、作品をコンピューター的に描いてしまうことだ。コンピューターなのでどうしてもCG的になってしまい、むしろ子供の絵のように描く方が難しい。同様の手法で動画も制作が可能である。ドイツ人の写真家が生成AIソフトで作った作品がコンテストで賞を取ってしまったことが話題になったが、十分あり得る話だ。

このように画像生成でもハイレベルなのだから、文章の生成なら現在のコンピューターの実力だとたやすくできてしまうことは、ご想像のとおりである。「10年後の印刷業界は?」という抽象的な質問でも、そこそこの答えなら返してくれる。「ナルホド」という解答は難しいが、いわゆる当たり障りのないレベルであったら、及第点以上の回答だ。ワタシテキには、ChatGPTのこういうところが気に入らないのだが、作品となるとやり方次第では、賞を狙えるレベルの制作も可能になる。

生成AIをどのように活用するか

そんなわけで、今回は「生成AIが印刷ビジネスにどのように役立つのか?」という話をしてみたい。あくまでも私見であり、インターネットで調べただけでもないということを、あらかじめご理解いただきたい。もちろんJAGATの内部でもかなり議論をしており、スタッフだけではなく会長や副会長、理事の諸氏とも話し合っている。

さて、先ほども述べたように、言葉でのやり取りは今すぐにでも使用可能なレベルである。従って、印刷のネット注文(通販含む)に関しての受け答えは、少しの工夫で対応が可能だ。「どうしても」というSOSが出たときにのみエマージェンシー要員が対応するだけでも、省人化に随分とつながるはずである。

問題は、画像生成やレタッチ、デザインだ。これは昔のことで生成AI技術ではないのだが、ある中堅印刷会社からのオファーで、「大学の研究室との産学協同によるチラシデザインシステムの開発」に取り組んだことがあった。結局、製品化には至らず(個人的な反省点も多かったが)、デザインの基礎レベルの勉強会に終始してしまった。その研究室では交通インフラのアルゴリズムなどの研究を行っており、デザインシステムとは親和性があったと思うのだが、バウハウスのグリッドシステムなどを洋書で理論的に学ぶ機会を得たことは、個人的には大きな糧となった。

そのとき確信したことが、デザインとは論理的なモノであり、科学的だということである。例えば家電チラシであれば、基本デザインにのっとってグリッド設定(設計)をしておき、目玉商品やセール商品を左上に集め、後はジャンル(商品グループ)に従ってまとめていけばよいのである。白物家電だったら自動的に色が統一されるため、味気なかったら少し色を変えてみるとか、イラストをあしらってみるとか、モデルを入れてみたりすればよいのだ。この辺はマニュアル操作の方が効率的かもしれない。

そして、これを生成AIにやらせるのは決して難しいことではない。昔だとチラシデザインシステムを開発する際には、膨大なマーケティングデータをどのように反映させようか?と苦労したものだが、ビッグデータを普通に扱う今となっては、当時の「膨大な」データはミディアムデータ程度である。現在のチラシ市場の惨状だと、デザインシステムは「夢のまた夢」で必要ないのかも知れないが、生成AIを使うことでいともたやすく実現できると信じている。

どこかがやれば、追従するメーカー・販社・印刷会社・印刷発注者(印刷会社的には大問題)の数も多くなってくると思う。バリアブル(とまではいかなくてもバージョニング)な印刷物にはデザインの手間も膨大になるが、その解決策としては生成AIが最短距離である。そしてその際には、印刷会社のスタッフが持つべき素養も変わってくるだろう。例えばデザイン的な才能は、純粋なクリエーティブセンスから、そのクリエーティブなセンスをコンピューターにも分かるように、論理的な思考に置き換えられることの方が最重要となり、必要になってくる。「そんな人間、日本にいるわけない!?」で済ませてきてしまったが、日本も考え直さないとイケない。

(専務理事 郡司 秀明)