文字は、デザインの要となる要素である。タイポグラフィはデザインのあらゆる分野に必要とされ、メディアとともに発展している。
巷にあふれるポスター、チラシ、またはデジタルサイネージ、Webサイトなどあらゆるメディアを見ていくと、写真やイラストレーションが使われていないものはあっても、文字のないデザインはほとんど見当たらない。
例外として、非常口やトイレの案内などのサインはマークだけで表現されている場合もある。しかしそれは、マークの意味が社会的に知られているからこそ可能なのであり、通常は、画像表現をどんなに駆使しても、文字がなければ正確な情報は伝わらない。
文字は、画像とともにデザインの要となる要素である。
だからデザイナーはタイトルはもちろんのこと、但し書きのような付属情報に至るまで、書体、サイズ、色、組み方などに注意を払っている。
デザインの世界ではタイポグラフィという言葉がよく使われる。活版印刷の時代に生まれた言葉であるが、現在では文字の配列、書体そのもののデザインなど、文字を使ったデザイン全般を指すことが多い。
現在の日本でもタイポグラフィについての研究や普及活動が活発に行われている。
日本タイポグラフィ協会(JTA)は、1964年に結成された日本レタリングデザイナー協会を母体とし、現在は文字による視覚伝達の研究や普及に取り組んでいる。協会が発行する「日本タイポグラフィ年鑑」は国内外から一般公募で選んだ優秀作品を収録している。
1987年に設立され設立30周年を迎える東京タイプディレクターズクラブ(TDC)は、国際デザインコンペティションの「東京TDC賞」を主催し、受賞作を年鑑「Tokyo TDC」に収録している。
今年4月7日〜5月19日まで、竹尾 見本帖本店2Fにおいて「日本タイポグラフィ年鑑2017作品展」が、また4月5日〜28日までギンザ・グラフィック・ギャラリーにおいて「TDC 2017」展が開催された。
二つのコンペティションの受賞作品のいくつかを紹介する。
日本タイポグラフィ年鑑2017
「日本タイポグラフィ年鑑2017作品展」(竹尾 見本帖本店2F)
グランプリは石川竜太氏によるビジュアル・アイデンティティ(VI )「月岡温泉摩周」が受賞した。摩周の「ま」を模したダイナミックなシンボルマークと多様な展開、完成度が評価された。
学生部門グランプリは桑沢デザイン研究所の山岸由依氏による「飛び出すことわざ辞典」が受賞した。ポップアップの手法により、楽しさを演出しながら言葉の一つ一つを浮き立たせた点が評価された。
中野豪雄氏によるpage2016竹尾ブースのVI 「TAKEO’ Paper Selection for Digital Print @virtual office」は、竹尾のファンシーペーパーとデジタルプリント技術を用いて作られた仮想のオフィス空間。
粟辻美早氏によるお茶の老舗のパッケージ「辻利宇治本店」は、シンプルで統一感あるデザインに種類による色分け、大胆にあしらった文字によって茶葉の違いを表現している。
中国などアジア圏の作品も多く、漢字を自由自在に操る発想に驚かされる。例えば洪衛氏による「呢喃宋(Twittering Sung)」は、中国古代の鳥印から着想し、囀りながら飛ぶ鳥の形で文字を表現している。
TDC 2017
「TDC 2017」展(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)
グランプリはイギリスのJonathan Barnbrook氏によるデヴィッド・ボウイの遺作アルバムのデザイン「David Bowie Blackstar Cover Design」が受賞。タイトル「Blackstar」のアルファベットの代わりにunicode文字の「★」を使用し、ウェブやiTunes、電子メールなど異なるメディアを通じてシェアされることを意図した。
大坪メイ氏による「記憶のステッチ」は東京造形大学の卒業制作作品の一つで、自分が生まれた日の新聞をクロスステッチで再現した実験作。読めそうで読めない文字列によって記憶の曖昧さを表現した。
デンマークのBo Linnemann氏によるInfiniti、Nissan、Datsun3種の車のためのブランドタイプフェイスは、そのぞれのアイデンテイティを体現しながら、全世界で機能するようさまざまな言語をサポートしている。
藤田すずか氏と宇野由希子氏による映像作品「夜は」が平仮名を3DCG化し、日本の文字の持つ空間性を表現することを試みている。
これらの受賞作品を見ていくと、タイポグラフィが関わるジャンルの広さ、社会に対する影響力を感じ取ることができる。
古代から人々は文字によってさまざまな事柄を記してきた。その表現手法は筆記具が発達するにつれ、やがて印刷技術が生まれ進化するにつれ、変化していった。
今後Webファースト、モバイルファーストによって新しい文字表現が生まれてくるであろう。
しかし文字をいかに美しく、いかに伝わりやすく表現するべきかということは、時を超えたテーマと言える。
印刷業界は活版印刷から写植、DTPの歴史の中で組版技術を培ってきた、文字表現のプロフェッショナルである。その資産を生かし、オンスクリーンの世界でもタイポグラフィの分野でイニシアティブをとってほしい。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)