印刷技術とメディアの変遷(その弐)

掲載日:2017年6月21日

メディアの変遷だが、今回はアナログ時代の最後からDTP前夜までを解説してみたい。普通の印刷技術歴史年表には出てこない事例を中心に述べているトリビア的話だ。

前回(その壱)は作図機が登場し、製版のシステム的な合理化が進んだということを述べた。印刷の設計図ともいうべき版下と製版処理に使うピールオフフィルム(俗に言う赤マスク版)を同じデータで作成できるようになり、かつCEPSで写真を少し大きめで貼り込み(レイアウトし)、赤マスクでトリミングすることで、従来の製版工程が画期的に合理化されたのだ。

製図機登場以前はシステム化などと呼べるものはなく、絵柄品質はスキャナに勝手に依存し、文字は写植機(フォントと組版技術は職人もしくは電算の能力)に勝手に依存していたのだ。その状況が、2mm方眼のグラフ用紙に描いたラフレイアウトの点をプロットしていくだけで版下ができあがり、同じデータでピールオフフィルムをカットすることで集版用のマスクが出来上がってしまうのだ。それをピンシステムで合わせればピタッと見当が合うわけだから、手作業と比べれば本当に夢のようなシステムだった。

当時はフィルムが暗室タイプだったので、オルソタイプのフィルムを使えばピンシステムを使用して紙販下を密着反転することが出来たのだ(驚くこと無かれ、この当時は常識だったのだ)。この一点(紙版下を密着反転できる点)で作図システムは成り立っていたのである。

話は余談になるが、世界の製版会をリードしていたサイテックス社は製版データがピールオフフィルムのデータから成っているとして、そのピールオフフィルムを表現するのに、ランレングスデータを使っていた。めくる前のカット済みピールオフフィルムのようなデータで、めくるかめくらないか?チントを伏せるか??で製版データを完成させるというデータだった。今でもPhotoshopフォーマットに残っているScitex Lineworkというデータがこれに当たる。

対して日本勢は「チラシという文化があったからか?」製版データを図形と見るところから始まったのだ。互いに良いところがあり、最終的には融合してしまうのだが、現在のDTPデータを見ていると「やっぱり製版データは図形だったかなぁ」と思うのは自贔屓であろうか?

このように定着しそうになった作図システムも集版の合理化(進化)で、フィルムが明室フィルムになり、近紫外光でしか感光しないようになると、ケント紙は近紫外光を透過しないため版下の密着反転が出来なくなってしまったのだ。

このため版下を製版に活用するためには、カメラで版下を原寸撮影する必要があり、原寸と言ってもレンズ収差が存在するので、寸法誤差や直交性が曖昧になることが当たり前になってしまったのだ。

ここに目を付けたのが、入力精度が極端に良いデジタイザーを使っていたメーカーで、それまでのデジタイザーは絶対精度よりも作業性の良いものが好まれ、フリーアクセスタイプ(マウスタイプ)で、デジタイザー内(表面下)に格子状の伝線が走っていて、カーソル位置を検出していた。従って絶対精度というと少し疑問符が残るものだった。

それに相対するのがドラフタータイプのデジタイザーで、ドラフターの軸(縦横)にリニアエンコーダーが付いていて、カーソルを合わせてクリックすると正確な座標値が入力できるものだった。密着反転できないと、版下をフィルム化するのにはカメラで撮影するしかないのだが、その製版カメラは35mmカメラに比べれば精度は良いのだが、レンズを使う限り収差の問題はつきまとうのだ。

どういうことかというと、まずサイズだが210mmといっても実際は210.09mmだったりするわけで、直交だって本当に垂直になっているかどうかは「?」である。したがって版下を撮影したネガフィルムを基本にしないと不整合が起こってしまうので、「ネガ入力」というトリビアな専門用語が生まれたのだ。直交が怪しいなら、矩形(長方形)を直線で四辺を描画して作るという代物である。直交ではなく四角形の図形を作るということで、文字との間隔も問題なくなるというわけだ。

もしも水平製直で線を描画してしまったら文字との微妙な間隔がおかしくなってしまう。したがって、平行線群だって直線で正確にプロットして群を描画するのだ。つまり、版下の線(レンズ系を通した後のフィルム)を使うのだったら、ネガフィルムを正確にプロットするしか無くなったのだ。そこでドラフタータイプのデジタイザーが復活したわけだが、技術の進歩はすさまじく、フリーカーソルタイプのデジタイザーでも必要十分な精度が得られるようになって来たのである。

そんな風潮に対して、カメラ側も黙って見ていたわけではなく、平面スキャナとカメラのハイブリッドのようなスリットカメラが登場したのだ。平面スキャナはレンズ系を使うのは主走査方向で、それ以外は物理的に原稿を移動してスキャニングするのだ。こちら側の寸法精度は送り調整で何とかなるわけだ。平面スキャナとカメラのハイブリッドカメラは、スキャナのように主走査方向はレンズ系で、副走査方向はフィルムを副操作スピードと同じスピードで移動させながら露光させるのだ。この理屈で原寸性や垂直水平性は圧倒的に良くなるわけである。

こんな風に大量のカラー画像を色分解するだけではなく、レイアウトされた一頁の品質が問われる時代に突入し、今後CEPSによる文字と画像がそろった完全ページアップ時代(今考えると短かった)を経てDTPに向かうのである。

(JAGAT専務理事 郡司秀明)