「JAGAT印刷産業経営動向調査」より新技術、サービスの導入状況、満足度、導入意向を紹介する。
JAGATが毎年、会員企業を対象に実施している「印刷産業経営動向調査」の2016年度の調査結果から新技術/サービス/システムの導入状況、今後の導入意向についての結果を紹介する。本調査回答企業の平均従業員規模は122.3名、1社当たりの平均売上高は26.9億円であり、中堅クラスの印刷会社が中心である。
【表1.現在導入率の高い順】
表1は現在導入が多い順に並べたものである。第1位はカラーマネジメントシステムで84.3%、第2位がバリアブルデータ印刷の63.7%、第3位は高精細/高色域印刷で46.1%となっている。ここまでの順位は昨年と変動はない。
第4位は電子販促(デジタルサイネージ/電子チラシ/AR)の40.2%で、昨年の7位(29.5%)から約10ポイントの大幅アップとなった。他に導入率の伸びが目立つのはWeb to Printが前年の9.5%から33.3%となり約3倍増、プロセスレスプレートが前年の4.2%から9.8%へと倍増以上となっている。
また、動画制作は2012年度から調査項目に加えているが、2012年度の導入率17.0%から順調に導入・普及が進み、2016年度調査では導入率が38.2%となった。印刷会社の4割近くは動画制作に取り組んでいることになる。電子販促も同様の導入率であり、紙(印刷物)プラスデジタルでのソリューション提案というスタイルが取組みとしては定着しつつある。
一方で3Dプリントサービスは伸び悩んでいる。昨年に続いて導入率は最下位の18位(2.9%)であった。後述する満足度においても、今後3年以内に導入予定があるかどうかという問いにおいても最下位となっている。印刷業と3Dプリントの親和性は低いと結論づけても良いような調査結果である。
【表2.満足度の高い順】
導入した結果の満足度は、A:大変満足、B:やや満足、C:普通、D:やや不満、E:非常に不満の5段階評価で回答してもらい、A:5点、B:2点、C:0点、D:-2点、E:-5点という重みづけで点数換算して満足度を数値化している(表2)。
満足度の点数が最も高かったのはリモートプルーフで1.14点であった。昨年度調査から導入率はほとんど変わっていないが満足度は0.25点の8位から大きく上昇した。第2位がバリアブルデータ印刷の0.92点である。昨年は0.80点で1位であり、印刷物の効果を高める手法として認知、普及が進んでいるようだ(導入率は63.7%)。高精細/広色域印刷(第3位 0.75点)、XMLを利用した自動組版(第4位 0.55点)は例年どおり満足度が高い。
今年度の特徴は、動画制作の満足度が大きく上がったことである。2013年度▲0.40点(13位)、2014年度▲0.18点(13位)、2015年度▲0.12点(13位)ときて、今年度はプラスに転じて0.38点(6位)となった。スマホで簡単に動画を撮ったり、SNSでショート動画を手軽に楽しんだりするのが日常的になるなか、企業にとっても動画によるメッセージ伝達の重要度は増している。この傾向は今後も続くであろう。
印刷会社によるデジタルメディアへの取組みは、満足度という指標ではこれまでなかなか良い結果がでていなかったが、ようやく動画制作で高評価となった。
【表3.今後3年以内に導入予定の高い順】
表3は今後3年以内に導入を予定しているとの回答が多い順に並べたものである。第1位はWebtoPrintが14.7%、第2位がJDFワークフローで8.8%、第3位がリモートプルーフと営業支援ツールが並んで7.8%であった。
WebToPrintは昨年は4位(8.4%)であったが、2011年度以来のトップに返り咲いた。印刷通販の上位企業の寡占化が進むにつれ導入意欲の数字も下がっていたが、シール・ラベルや帳票などターゲットを絞った印刷通販展開、あるいは既存顧客との間の受発注業務の効率化ツールとして改めて導入意欲が高まりつつある。
第2位のJDFワークフローはインダストリ4.0が話題になるなど世の中の流れへの対応と、労働人口の減少による採用難からの製造工程の自動化、省力化ニーズの高まりという二面がありそうだ。
営業支援ツールは前年の10位(4.2%)から大きく順位をあげた。マーケティングオートメーションが話題になるなど営業、販促分野でのIT支援は業界を問わずテーマとなっており、今回の結果はそうした動きを反映したものといえそうだ。
詳細は9月発行予定の経営動向調査報告書を参照いただきたい。
(研究調査部 花房 賢)