最近「カスタマージャーニー」という単語をよく耳にするのではないだろうか? もちろん、マーケティング関係者ならご存じだと思うが、広告メディアに関係している印刷会社(特に商印関連)なら知らなくてはいけない必須用語である。
「カスタマージャーニー」は、ウェブ時代になって複雑化している顧客の行動を捉え、マーケティングの成果をアップするために役立つ考え方だ。かつては行動を画一化したマスマーケティングが主流だったが、One to One マーケティングのように多様なアプローチが必要になって(ウェブを使用すれば個々のアプローチも可能になると)、カスタマージャーニーがよりクローズアップされるようになった。
そして、このような複雑化したマーケットに対応するように生まれた仕組み(ソリューション)が、マーケティングオートメーション(MA)であり、MA の具体的な行動を決定する前提になるのがカスタマージャーニーだ。
さまざまなターゲットがそれぞれの状況で種々の行動を起こすパターンがカスタマージャーニーで、具体的には「このタイミングでこういうアクションを起こし」「それに対してどうリアクションするか?」という方法を可視化したプロセスである。
カスタマージャーニーを一言でいうと「顧客が購入に至る過程を旅に例えたもの(プロセス)」である。それをマップ化したもの、顧客がどのように商品やブランドと接点を持って認知し、関心を持ち、購入意欲を喚起されて購買や登録などに至るのかという道筋を旅に例え、顧客の行動や心理変化を時系列的に可視化したものをカスタマージャーニーマップと呼ぶ。実際にはマップを作成して、これで施策を練るわけだ。
ウェブをはじめとしたデジタルメディアやSNS、ウェブ通販などの普及により、流通だけではない多くの企業環境が変化している。売り上げを伸ばすためには、良い製品やサービスを作ることが重要であることに変わりはないが、それらを顧客に認めてもらうためには、消費者意識や行動を理解& 対処することも必要だ。
現代社会は個人同士や企業などのグループと常時インターネットでつながっており、美味しいものを食べたければスマホでGoogle検索すれば、隠れた名店をいとも簡単に発見することができてしまう。こうした環境では、今までのように「良いものだけ作っていれば認めてくれる」という職人的発想だけではなく、周到なマーケティング戦略なしにはビジネスを成功できない。
「顧客がいかにして自社の製品やサービスを知るのか?」「競合他社と比較して、自社の製品やサービスはどのような面で優れている(または劣っている)のか?」「顧客はどういった点を重視して購買にいたるのか?」といった、消費者行動や顧客体験を理解・共有する必要がある。そして自社のビジネスやマーケティングを顧客に知ってもらい、その結果選択してもらうために、カスタマージャーニーマップは不可欠な存在となっているのだ。
カスタマージャーニーマップの仕様は商品やサービス、ブランドイメージなどによってさまざまだが、製品やサービスに対して潜在的な興味・関心を持つ顧客が「どのような人物であるのか?」マーケティング用語でいう「ペルソナ」を設定する必要がある。
「ペルソナ」とは、ラテン語で「仮面」のことだが、心理学者のユングが「人間の外的側面」をペルソナと呼んだことから、マーケティングにおいても「企業が提供する製品・サービスにとって重要で象徴的なユーザーモデル」の意味で使われている。
ペルソナとは氏名、年齢、性別、居住地、職業、勤務先、年収、家族構成という定量的なデータだけではなく、生い立ちから、身体的特徴、性格的特徴、ライフスタイル、価値観、趣味嗜好、消費行動や情報収集行動などの定性的データを含めて、あたかも実在するかのような人物像を設定する。更にイメージを明確にするために顔写真やCG 画像が用いられる場合もある。
かつての欧米型マーケティング理論では、「いくらお金を持っている」が一番重要な情報だった。ところが、最近のデジタルマーケティングになると、人間関係等の日本的な定性的価値観が注目されているともいえるのも皮肉な話である。
横町にある呉服屋の女将さんが足をくじいて買い物に出られないとしたら、昔だったら御用聞きに行ったたらよいということになるだろうし、現在だったら買い物代行サービスという商売が流行っているのだ。IT 時代の時間のないエリート層にはアジアで大受けらしいのだが、こんな情報が重みを増しているということである。
(『JAGAT info』2017年4月号より)