国民1人当たりGDPによって示される「経済の豊かさ」を向上するためには、効率的、経済的な成果を生み出すことが不可欠だ。それを定量的に数値化した指標の1つが労働生産性である。
今後、日本は就業者数が伸びず就業率の低下も見込まれているが、国民1人当たりGDPを改善するためには、労働生産性を高めるしかない。また、サービス業は、製造業より労働生産性が低い傾向にある。印刷業も顧客の望みを何でも聞き入れサービスに反映することが正しいと考えていると、いつまでも労働生産性が上がることはない。
スキルが左右する労働生産性
労働生産性とは、生産工程における労働の効率のことである。生みだされた生産額を投入した労働量で割った値、たとえば社員一人一時間あたりの生産額などで表している。労働生産性は、社員の技能、熟練度、環境などの諸条件が大きく影響する。労働生産性が向上しないと賃上げなどの改善も難しい。
日本の労働生産性は、残念ながら先進国のなかでも低い位置にある。この生産性を高めるためには、より高いレベルの仕事を効率よくこなさなければならない。その基盤となるのが個々の能力だ。個々が生み出す付加価値を高めるには、働き手自身の能力開発に重点的に取り組む必要がある。
社内失業400万人時代
社内失業者はどの程度存在するのだろうか。「社内失業」とは、企業に正社員として在籍していながら仕事を失っている状態であり雇用保蔵者(過剰雇用)とも呼ばれる。受注の落ち込みなど減産で一時的に余剰人員が生じるケースとは異なる。最近は、企業が新たに採用した人材を適切に教育できず、企業に貢献するスキルがないまま、職場で放置されている実態(社内ニート)もよく耳にする。
これらの正確な数の把握は難しいが、雇用保蔵者数のシミュレーション資料がある(リクルートワークス調べ)。この資料のなかで雇用保蔵者は、2015年401万人と10年前の約4倍になっている。対策として、働き手が技量アップし流動的に動ける環境づくりが必要であり、そのためには教育訓練が最重要とされる。
雇用保蔵者の割合は、2025年に向けて景況に大きな変動がなければ、8%前後の高い水準を維持し、2025年には雇用者5,066万人のうち415万人もの雇用保蔵者が生まれるという。
そもそも日本の企業は雇用調整を以下の優先順位で行ってきた。
1. 所定外労働時間の削減
2. 配置転換や出向、希望退職
3 .直接的解雇
したがって、生産量に見合う以上の労働力(過剰雇用)を抱える傾向にある。この過剰雇用は生産量が戻れば解消するため、過剰雇用とは言わず雇用保蔵という言い方があるのだ。雇用保蔵の分だけ企業の雇用保障が高いことを意味する。仮に過剰分を解雇すれば、人材育成に無駄が生じる上、従業員のモラル低下などデメリットもあり、雇用保蔵には経済合理性があるとも言われるが、労働生産性の視点から見ると問題も多い。
若返ってしまった、かつての「窓際族」
バブル崩壊以降の景気低迷により、多くの中小企業が新人を採用して育てることを休止していたため、構造的な中堅社員不足と社員教育の落ち込みが生じた。そのツケがいま、就職氷河期を勝ち抜いて正社員として働く比較的若い社員に「社内失業」という形で回ってきている。
正社員でありながら仕事がないという一昔前の「窓際族」も社内失業の一形態といえる。しかし、この窓際族は定年間近の中高年層が多く、年功序列で地位や賃金が保証されていたため、深刻なイメージは少なかった。反して、現代の社内失業者の多くは若手社員といわれている。貴重な人材がキャリアを形成するための教育を受けられないまま、余剰人員として埋もれている。それが現代の社内失業の実態であり、以前の窓際族よりも深刻な問題だ。
(西部支社長 大沢 昭博)
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