「これがデザイン!?」ジャンルを問わずにデザインを評価するグッドデザイン賞は、毎年驚きと発見をもたらしてくれる。
公益財団法人日本デザイン振興会(会長:川上元美)が主催する2017年度グッドデザイン賞の受賞結果が10月4日に発表された。
2017年度グッドデザイン賞受賞概要
グッドデザイン賞は、美しさや使い勝手だけではなく、社会の課題解決に役立つもの、常識を打ち破り新しい事業領域を拓くもの、今後の成長が期待されるものなどが評価される。
今年の「グッドデザイン・ベスト100」「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」受賞対象から、印刷業界の課題にも関わりあるデザインの一部を紹介する。
グッドデザイン大賞候補
●漢字ドリル[うんこ漢字ドリル]
株式会社文響社(東京都)
小学校で習う1006の漢字を、「うんこ」という言葉を使って覚える学習参考書。大人も子どももついつい笑ってしまう面白さと、新学習指導要領にも対応した実用性を併せ持つ。
今年3月の発売以来、発行部数が270万部を超えた。
子どもの自発性を引き出すことに成功した点、書店などでの訴求力、当初書籍として考えた企画を学習参考書にまで引き上げた出版社の力など総合的に高い評価を集めた。
●スマートプロダクト [Xperia Touch]
ソニー株式会社(東京都)+ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(東京都)
さまざまな場所にスクリーンを投写し、直感的な操作による新しいコミュニケーションを提案するスマートプロダクト。
通常のスマートフォンはタッチパネルでしか操作ができないが、Xperia Touchは、壁やテーブルなどを操作画面に変えることで複数の人がゲームや映像観賞、ビデオ通話などに参加することが可能。Android™ OS搭載でGoogle Playのアプリケーションを楽しめる。
家庭用プロジェクターをインタラクティブな新ジャンルの道具に進化させた点が評価された。
●生産者支援プラットフォーム [SEND(センド)]
プラネット・テーブル株式会社(東京都)
農畜水産業の生産者と飲食店のシェフを直接つなぐ流通プラットフォーム。
位置情報や天候などのデータから需要量を予測するIT技術を活用し、畑から食べるまでのタイムラグやフードロスを極小化。
サービスリリース2年で、出荷生産者数4200軒、首都圏3200店以上の個店レストランをつなぐまでに成長した。持続的な営農を支え生産者のモチベーションの向上を図っている。
少量多品種を安定供給する難しさをデータ分析と物流システムで解消した点、人とテクノロジー、それぞれの特性が活きるビジネスデザインなどが評価された。
グッドデザイン・ロングライフデザイン賞
●フォント [イワタUDフォント]
株式会社イワタ (東京都)
老眼や白内障、弱視でも「見やすい」というコンセプトを持つユニバーサルデザインフォント。2006年にパナソニック株式会社と共同開発し、多くの業界・業種に採用された。
文字に新しい視点を与え、カテゴリーを創出させた点、高齢者や視覚障害者の生活の質を高めるという社会的な価値が評価された。
グッドデザイン・ベスト100
●名刺 [LIMEX(ライメックス)名刺]
株式会社TBM (東京都)
石灰石を主成分にした紙・プラスチック製品の代替となる日本発の新素材。原料に水や木材パルプを使用しないのが特徴で、1箱100枚の名刺で約10リットルの水を守ることができる。木材パルプと比較して安価、耐水性、耐久性、指切れしないなどのメリットがある。
近い将来の水問題や地球環境資源問題に目を向け、エコロジーとエコノミーの両立が可能である点などが評価された。
グッドデザイン賞の多くのデザインに印刷技術が関わっている。「うんこ漢字ドリル」などはまさに印刷物なのだが、フォントや名刺素材など、それを使用して実際に印刷することで価値を持つものもある。 その他一見印刷と関わりのないものであっても販促ツールには印刷物を多く利用する。 グッドデザイン賞の背後には受賞企業としてクレジットされていない、数多くの印刷会社が存在するであろうことに思いをはせる。
印刷会社は、技術力によって企業やデザイナーのプロジェクトを支えていることに誇りを持って良い。
一方では印刷会社自体が、デザインの表舞台に出る事例がもっとあっても良いと思う。
例えば今年度、凸版印刷株式会社はメンタルヘルスに関する啓発イベント [向き合うと、変わりはじめる写真展]で、2016年度は株式会社ウイル・コーポレーションが紙製品(広告宣伝) [ハサミも糊も要らない「魔法のペーパークラフト」でそれぞれグッドデザイン賞を受賞している。
JAGATは、印刷会社がデザインをキーワードに事業領域を広げるための情報を提供していく。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
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ビジネスをデザインする―新しい価値を生み出す思考法
グッドデザイン賞受賞例、東北の食品業者へのブランディング、転写シール技術を応用したウエアラブルメモなど、デザイン発想を生かした取り組みを紹介する。
講師:廣田 尚子氏(グッドデザイン賞審査委員)/三輪 宏子氏/今井 裕平氏
2017年10月19日(水) 14:00-16:50