「見える化」に取り組むことは収益改善につながるだけではなく、経営者意識を持ったマネージャーの育成にも有効だ。宮川印刷の事例を紹介する。
滋賀県にある宮川印刷は大正元年(1912年)創業、従業員数77名の総合印刷会社である。
企画・デザイン制作や印刷・加工技術をコアに、折込広告、パンフレット、ダイレクトメール、ポスター等商業印刷物、美術印刷、各種月刊出版物、学術関係単行本、統計関係頁物印刷物、企画・デザイン、ホームページ制作などをワンストップで行っている。
営業部 業務課 中尾達廣氏に「見える化」についての取り組みをうかがった。
社員のために「見える化」を推進
同社が「見える化」に取り組み始めたのは2014年ごろからだ。
おぼろげながらにしか見えていなかった数値をはっきりと見えるようにしたい。どの仕事が儲かって、どの仕事が損をしているのか? どこの部門が儲かって、どこの部門が損をしているのか? 自社の強い分野と弱い分野は? など様々なものを数値化し、分析することで収益改善につなげたい。
会社を存続するため、社員のために見える化を推し進める決意をした。
「見える化プロジェクト」
まずは「見える化プロジェクト」を立ち上げ、5人のプロジェクトメンバーを営業部から3名、制作部から1名、印刷部から1名選び、さらにオブザーバー2名と社長の計8名で見える化に取り組み始めた。
MISツールの導入を検討する中、
・自社開発ができる人材が不足していること
・パッケージソフトながらカスタマイズが可能なこと
上記2点をクリアするビジネスイーブレーンの「Print Manager」を導入することを決めた。
「Print Manager」を起動すると、最初にダッシュボードが立ち上がり、月ごとの「全社売上目標と実績」「全社付加価値目標と実績」「営業担当者別売上目標と実績」「付加価値目標と実績」を棒グラフや折れ線グラフで表示する。
また、「月間付加価値ベスト50」「得意先別売上付加価値」「商品別付加価値、営業担当者別の付加価値ベスト3」「前期大口受注リスト」「疎遠ユーザ受注リスト」なども表示され、現状を直感的に把握できる。
見積もり、工程管理、作業分析まで1ジョブごとの通しナンバーで管理しており、仕事が発生したら、営業が仕上サイズ、綴じ、頁数などの仕様を入力し、自動で見積もり計算ができる。
進捗管理は、管理帳票を活用し、進行状況、変更連絡、外注加工の検索などができるようになっている。
この帳票では、納品日はもちろん、案件、得意先、営業担当、制作担当、用紙別でのカテゴリ別一覧表示も可能だ。
MISを活用した見える化を実現した結果、
・目標数値達成率
・工程ごとのコストメーター
が表示され、原価照会、社内仕切額とアワーコストの確認もできるようになった。
1ジョブごとの損益、得意先別損益、担当者別損益が見えるようになり、月次のワースト20をピックアップし、各部門・部署にてコメントを記入、原因を考え、対策を会議するようにもなった。
情報共有の徹底と、赤字案件抽出→改善計画→改善策実行→検証、評価→結果の改善というPDCAサイクルをきちんと回すことを続けている。
見える化で経営者意識を持ったマネージャーが育つ
「見える化」に取り組んでみたいけれども、
・みんな忙しくてスタッフが足りない
・社内の意識がなかなか変わらない
・MISを導入したものの活用できていない
・自社の原価(アワーコスト)が計算できない
・先送り先送りでずるずると時間がかかってしまう
という声をよく聞く。
宮川印刷 中尾氏も「最初の頃はなかなか進まなかった」という。しかし、その壁を乗り越えたのは「見える化情報交換会」の入会だった。
この会は、見える化(収益改善活動)に取り組んでいる有志の印刷会社で運営されており、年に2 回、東京、名古屋、大阪各地持ち回りで、工場見学会と発表会を実施している。
各社から3名ほど参加し、発表会ではメンバー企業が自社の見える化の進捗、改善活動、利益管理、人材育成などを議論し互いに研鑽し合っている。
発表するからには、自社の課題を発見し、改善しなければならない、おのずと経営者意識を持ったマネージャーが育つ仕組みになっているのだ。
残念ながら現在、「見える化情報交換会」は運営効率の関係で新規の参加企業は受け入れていない。そこでJAGAT では多くの印刷会社で要望の強い「見える化」への取り組み支援事業として、「見える化情報交換会」の運営ノウハウを全面的に取り入れた「見える化実践研究会」を2018年2月に立ち上げる。
世話役を「見える化先進企業」の佐竹 一郎 氏(大東印刷工業)、松岡 祐司 氏(アサプリホールディングス)、作道 孝行 氏(作道印刷)にお願いし、座学と見学会、実践と発表を繰り返しながら、お互いに切磋琢磨する企業同士の自己研鑚の“場”とし、「見える化」実現の期限を決めて必ずやりきる会だ。
これらの活動により、研究会参加企業の見える化は強力に推進され、収益改善に大きく寄与できるものと考えている。
見える化実践研究会
基礎会員クラス 残席1 となりました。
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花房(はなふさ)/小須田(こすだ)まで(TEL 03-3384-3113)