写真家の感性と印刷技術が響き合う「門田紘佳 写真展 6″85」

掲載日:2017年12月21日

写真家の作品と、その作品を収めた写真集の製作工程を紹介する「門田紘佳 写真展 6″85」が、12月26日(火)まで光村グラフィック・ギャラリー(MGG)で開催されている。写真家とデザイナー、印刷現場が思いを共有しながら一つの写真集を作り上げていく過程が分かる展覧会である。

門田紘佳(もんでん・ひろか)氏は、第18回(2016年度)コニカミノルタ フォト・プレミオで大賞を受賞し注目された若手写真家である。
受賞を機に今年12月、初の写真集『6″85』を出版した。今回の展覧会は『6″85』の印刷を手掛けた光村印刷が運営するMGGを会場に、写真集に収められた121点をインクジェットプリンターでバライタ紙に出力して展示、同時に造本設計の見本、色校正の責了紙、刷り出し、束見本なども展示し、1冊の写真集ができるまでの工程を解説している。

「門田紘佳 写真展」会場風景

印刷見本用の責了紙 印刷現場の再現

門田氏の作品は、そのほとんどがスナップ写真である。事前に構想を練ったり撮影のために特定の場所に出向いたりすることはない。その代わり常にカメラを持ち歩き、旅先で、あるいは日常生活の中でふと目に留めた光景をファインダーに収める。使用するカメラは主にコンパクトデジタルカメラであり、ライティングやフィルターなどの演出もない。

その作品に写し出されているのは、何気ない街の風景であったり部屋の片隅であったり、市井の人々だったりするのだが、どこかに引っかかりのある不可思議な印象を受ける。

例えば、フォト・プレミオ大賞を受賞した写真展「1”44」に出品した作品中、代表的な1点がある。

これはベトナム旅行をした時の一コマであるが、逆光で写った少年らしき人物の表情が見えるか見えないか、ギリギリの表現である。

撮影する時、特にテーマを念頭に置くわけではないが、写し出されたシーンには、自分が生きている世界の本質が自ずと表れると感じている。
「自分が撮影する写真は自分の作品であっても自分の表現ではない。身の回りにある世界が与えてくれる、何かしらの気づきなのだと思っている」と門田氏は語る。
自分の思い込みをなくし作品を客観視できるよう、撮影後は少し時間を置いてから作品を選定するようにしている。友人の批評も参考にしているという。

写真集の出版に際しては、東京造形大学で学んだ時の恩師、新木恒彦氏の後押しがあった。
新木氏がかつて光村印刷でプリンティング・ディレクターを務めていたことから、印刷製本を光村印刷に依頼することになった。
纐纈友洋氏のデザイン、新木氏のリード・プリンティングディレクション、光村印刷の川﨑智徳氏によるプリンティングディレクションのもとで制作が進められた。

編集に当たっては、写真の掲載順を工夫し、見開きあるいは表裏でテーマ性を感じさせるようにした。
製版では、作品1点1点の個性を引き出しながらも全体のトーンを統一させることに気を配った。門田氏の撮影スタイルが、複雑なテクニックを使わない自然なものであることから、レタッチの際もマスクを切ることはせず、写真全体のトーン調整を行ったという。
本文用紙はスーパーマットアート、オフセット4色印刷の上にニスがけ。
造本はクロス貼りの上製本仕様で、シルバーを感じさせるグレートーンのシンプルなものであるが、クロス、見返し、函それぞれに色味や手触りが微妙に異なっていて、門田氏の作品の特徴である日常と非日常のバランスを体現するものとなっている。

門田紘佳写真集『6″85』の造本設計

『6″85』というタイトルは、写真集に収めた写真のシャッタースピードの合算値が6秒85であることに由来する。いずれは60秒くらいの作品集を作りたいと門田氏は抱負を語る。

若手写真家のみずみずしい感性と、美術印刷の粋の両方を堪能できる展示会である。


門田紘佳 写真展 6″85

・会期:2017年12月12日(火)〜12月26日(火)
・入場無料
・休 館 日:日曜 ※12月16日、23日の土曜日は開館
・開館時間・11:00 - 19:00
・主催:MGG門田紘佳写真展実行委員会
・共催:光村印刷株式会社
http://www.mitsumura.co.jp/

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)