地域デザインはオンリーワンのデザイン

掲載日:2018年3月8日

全国各地で、デザインの視点で地域に活気をもたらすプロジェクトが進められ「地域デザイン」という言葉も使われるようになっている。最近注目された事例を通し、地域デザインを成功させるポイントを考えてみる。

街バルの先駆け「函館西部地区バル街」

[函館西部地区バル街実行委員会]

全国各地で「街バル」「バル街」などと呼ばれる地域興しイベントが行われているが、その発祥の地は函館市である。

函館市でバスク料理レストランを営む深谷宏治氏が、バル(立ち飲み居酒屋)文化が盛んなバスク地方と函館の旧市街地(西部地区)との類似点などに着目して発案、料理人や地域の友人、各飲食店に呼びかけて2004年に第1回を実施、以降年2回それぞれ一夜で4000人を超える人々を集め、昨年で14年目、28回の開催となった。

参加者は事前に5枚綴りのチケットを購入、チケット付属のマップに記された参加店を巡り、ドリンクと「ピンチョー」と呼ばれる軽いおつまみ料理を楽しむ。

行政による補助金や助成金を受けずに行われている点、深谷氏の尽力、他地域に無償でノウハウを提供しているなどの活動が評価され、2017年度グッドデザイン特別賞[地域づくり]を受賞した。

IT技術で食材の流通を支える「SEND(センド)

[プラネット・テーブル株式会社]

農畜水産業の生産者と飲食店間の受発注を仲介する生産者支援プラットフォーム。データ解析技術を駆使し、需要と供給をマッチング、少量多品種の安定供給を可能にし、廃棄ロス減少も実現している。2015年に試験運用を開始、2017年12月には登録レストランが4000軒を突破した。

同社代表である菊池紳氏は20代の頃に、農業を営む母方の実家から「後を継いでくれないか」と頼まれた。結局継ぐことができなかったのだが、そのことをきっかけに、農業後継者が希望を持てる仕組みを作ることを考え、この事業を立ち上げたという。

参考:生産者と飲食店をつなぐプラットフォームで、世界の農業・食料問題の解決を目指す!
菊池 紳 プラネット・テーブル株式会社創業者 | 日本デザインセンター

現在の農畜水産業は労多くして収益が得にくく意欲を維持していくのが難しい。しかし農畜水産業が衰退してしまったら外食産業も成り立たない。「生産者と購入者が、お互いなくてはならない存在として繋がるための仕組みを作る」というのがSENDのミッションだ。

2017年度グッドデザイン金賞を受賞。

買い物難民を救う「移動スーパーとくし丸」

[株式会社 とくし丸]

軽トラックを利用した移動食品店舗。地域スーパーから商材の提供を受け、販売パートナーが顧客の玄関先まで出向き販売する。買い物難民と呼ばれる人々のニーズを満たし、地域スーパー、個人事業主である販売パートナーにもメリットがある。

代表取締役 住友達也氏は徳島県に住む両親が近所のスーパーの閉店と病気によって買い物難民となっていたことを知り、こうした人々に食料品を届ける仕組みを作るために事業を立ち上げた。行政や助成金に頼ることなく、買い物弱者をなくすための持続可能なビジネスモデルを目指した。

とくし丸は2018年1月現在、270台が稼働、全国90社のスーパーと提携、42都道府県に展開している。東京都内にも買い物不便地域はあり、需要があるという。第1回日本サービス大賞 農林水産大臣賞2017年度グッドデザイン賞グッドデザイン・ベスト100 、環境省グッドライフアワード優秀賞などを受賞。

被災の象徴を復興の種に「ブルーシードバッグ・プロジェクト」

[一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO]

2016年の熊本地震後、県内のクリエイターの中から、デザインの力を復興に役立てるための模索が始まった。彼らが注目したのは、被災した家屋の屋根を覆っていた大量のブルーシートだ。被災した悲しみの象徴だったブルーシートを、前向きな明るいものに転換することはできないか。

そこで使用済のブルーシートを回収し、洗浄・縫製して、トートバッグにリメイクするプロジェクトが立ち上がった。
プロジェクト名には「ブルーシートを復興に向けたブルーシード(種)に」という願いが込められている。
売上の約50%が原価、約20%を寄付、約30%を活動経費にとバランスを取り、持続可能な運営の仕組みとなっている。製造は熊本県と大分県の企業に委託し、地域経済の振興にも役立てている。
使用済のシートの状況によって、一品一品がダメージデニムのような個性を持ち、ファッション性が高い。2017年度グッドデザイン特別賞[復興デザイン]を受賞。

宿を通してライフスタイルを提案「里山十帖」

[株式会社自遊人]

ライフスタイル全国誌『自遊人』編集長の岩佐十良が新潟県南魚沼市にある大沢山温泉の旅館をリノベーションして2014年にオープンさせた。

単なる宿泊施設ではなく、里山十帖での時間・空間すべてを「地域のショールーム」「ライフスタイルを提案・発信するリアルメディア」として捉えている。テーマの異なる12の客室とレストラン、ライフスタイルショップを併設する。

プロジェクト名の由来は「さとやまから始まる10の物語」。農作業体験「農」、郷土食文化を伝える「食」のほか10のテーマを設け、リアルな体験を通じて、新しい旅の魅力を作り出している。

「週刊ダイヤモンド」2016年10月15日号の特集「百花繚乱 ニッポンのリゾート」では、「ニッポンのリゾート」総合&満足度ランキングにおいて3位となった。
参考記事 

地域の住民も取り組みに参加し、山村の活性化と雇用創出も生み出している点が評価され、2014年度グッドデザイン特別賞[ものづくりデザイン賞]を受賞している。


以上の事例から、地域デザイン成功に必要な要素をあげる。

実体験に基づくモチベーション

紹介した事例は発案者の「生まれ故郷の困難を解決したい」「土地にある良いものを残していきたい」といった初心が事業を進める原動力となっている。

ユニークな発想

アイデアはゼロから湧き出てくるものではない。函館西部地区バル街にはバスク地方の立ち飲み屋というお手本があった。ブルーシードバッグの場合、東日本大震災後、津波に流された大漁旗をアクセサリーなどにリメイクするプロジェクトが立ち上がった事にヒントを得ている。ただし先行事例をなぞるのではなく、ローカライズして独自性のあるプロジェクトを生み出している。

優れたデザイン

とくし丸のロゴのインパクト、ブルーシードバッグの製品デザイン、「里山十帖」「SEND」のWebサイトなど、消費者の目を引くデザインがなされている。

事業として成り立つ仕組み

志が意義あるものであっても、無償では長続きしない。函館西部地区バル街は補助金を頼らずに継続させている。SENDの場合は生産者・飲食店・事業者、とくし丸の場合、消費者・販売パートナー・地域スーパー・事業者と、それぞれがメリットを受けられる「三方よし」「四方よし」の仕組みとなっている。

地域のキーマン

「里山十帖」の岩佐氏は東京生まれであるが、2004年に南魚沼市に移住して以来、地域の人々と関わりながら活動を進めている。ブルーシードバッグ・プロジェクトは佐藤かつあき氏、稲田悠樹氏をはじめとする、熊本県在住のクリエイターが中心となっている。


地域デザインを始める際には、地域の独自性を重視する必要がある。他地域で成功した手法をそっくり当てはめても、うまくいくものではない。

まずは、データを基に地域の実態、特色を客観的に掴むこと。そして、他地域の事例だけに捉われず、あらゆる魅力的な商品・サービスからヒントを得て、アイデアを練ること。持続性のある事業計画を立てることだ。
地域デザインには、経営的な視点とクリエイティブな視点の両輪が必要なのではないだろうか。

そして、何より大事なのは人材だ。東京のデザイン事務所やコンサルティング会社の力を借りることも、時には必要かもしれない。しかし、事業を実際に担うのは地域住民だ。地域の中にキーマンがいて、思いを共有する人びとと協働できてこそ、事業を続け、発展させることができるのである。

地域デザインとは、地域の数だけ形があるオンリーワンのデザインだ。全国各地で、土地に根ざした地域デザインが生まれ、人びとが住む喜びを感じられるような社会作りにつながることを願う。

3月11日まで東京ミッドタウン・デザインハブで開催中の「地域×デザイン2018 -まちとまちをつなぐプロジェクト-」で、「SEND(センド)」「移動スーパーとくし丸」「ブルーシードバッグ・プロジェクト」が紹介展示されている。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)