利用体験価値の提案とコミュニケーション施策
メディアの役割が企業の事業戦略の中で大きく変化している昨今、顧客のマーケティング活動を支援する立場として必要なスキルも変化しています。
本稿では、サービスデザインという視座に着目して、印刷業の業務展開にあたり私たちに求められるスキルをひも解いてみたいと思います。
課題解決とサービスドミナントロジック
–商品スペックによる価値の提供から、顧客による知覚評価へ
商品の価値そのものを中心に据えた経済活動から、商品自体の差別化ではなく、商品を使用することによって得られる利用価値、体験価値を第一に捉える経済活動が重視される傾向があります。
商品の価値を提供者である企業が定義づける(=グッズドミナント)活動に対し、顧客に提供される商品はサービス提供のための装置であって、サービス全体の利用価値は顧客と企業が共創するものと捉える(=サービスドミナント)方向性が重視される背景には、
- 商品自体の差別化で価値を提供することへの限界
- インターネットによる大量の情報等の環境変化により、価値が個別化しかつ商品サービスを利用する文脈も多様化している
といったビジネスおよび社会環境の変化があります。
商品・サービスの利用や体験の中で新たな価値を見出すには、ユーザー中心視点によりそのベネフィットを見出す方向性が求められます。
企業側の価値の定義により生み出された商品をマーケットに流通させるだけではなく、市場の中でユーザーは何を求めて何を必要としているのかという真のニーズ(=課題)を導き出していかなければなりません。
さまざまなビジネスの場面で「課題解決」ということがキーワードとして挙げられるのは、こういった経済活動の変化があるといえるでしょう。
サービスデザインとコミュニケーション施策
ユーザーの利用体験に焦点をあて、全体をサービスとして捉え、いかにユーザーに価値を提供できるかという観点で事業をリフレーミング(再定義)する「サービスデザイン」というアプローチがあります。
サービスデザインの例を挙げると、マンションリノベーションは、中古マンションという商品に対し、単なる不動産価値を追求するのではなく、ユーザーが個性を生かしたリノベーションを体験し、その不動産を住空間とし利用する中で、独自の価値を得ることができるというものです。不動産としてのスペックのみで商品を差別化することは難しい中古マンションに対し、逆に中古マンションでなくてはできない住空間の創出を提供する、サービスドミナントロジックを基にした事業モデルといえるでしょう。
ちなみに、近年ビジネスの場でも注目を集めるようになったデザイン思考とは、こうしたビジネスモデルのリフレーミングにあたって、従来よりプロダクトデザインや情報デザインなどにおいて用いられてきた思考プロセスを応用しようという動きから着目されるようになったという背景があります。
ユーザーとの関係を一連のサービスプロセスと捉えるこれらサービスドミナントロジックベースのアプローチでは、コミュニケーション施策の重要性はさらに増すでしょう。
マーケティングツールの基本として取り上げられることの多いカスタマージャーニーマップなどは、ユーザー視点でのサービスデザインの方向を見定めるうえで重要な役割を果たします。
このように、コミュニケーション施策に関わっていくためには、ビジネスモデルの変化に敏感である必要があり、その企画立案にあたっては、ビジネスのベースにあるこうしたさまざまな視座にも知見を拡げておく必要があると思われます。
参考文献
『サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用』(同文舘出版刊)
『THIS IS SERVICE DESIGN THINKING 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計』(ビー・エヌ・エヌ新社 刊)