『営業の見える化』からはじめる高収益への道

掲載日:2014年11月25日

印刷需要の減少に顧客接点となる営業はどう立ち向かうべきか。連載第一回目

…眠れる需要はそこにある…
「印刷営業の見える化」シリーズ 第1回

営業の現状

●営業現場の現状
1.社会環境や経済環境変化に伴う印刷需要の減少
2.年率2桁成長を続ける印刷通販市場
3.メディア・スイッチ化(印刷メディアから電子メディア)への進展
各種業界データが示す通り、さまざまな原因により印刷需要は年々減少している中で、唯一の成長分野である「印刷通販ビジネス」が伸びるほど、既存のプレイヤーの取り分はますます減少し、さらに印刷メディアから他のメディアへの切り替え現象は、さらなる需要減少に拍車をかけ、価格だけが下がり、印刷需要全体を減少させている。

●営業パーソンの現状
競争にならない相手
日々現場で活動する営業パーソンは、顧客からの厳しい交渉力、競合他社との受注合戦に加え、新たに出現した印刷通販との競争で疲弊している。
しかも競争に勝つための手段は価格以外に見つけることが難しく、保有する設備の稼働率を維持するためにやむをえず低価格受注に走る営業パーソンの姿に、果たして存在価値はあるのか…という声もある…。

営業パーソン不要説(営業パーソンは要らないのか?)
単なる印刷物の受発注だけなら、営業パーソンは要らない…

1.顧客は営業パーソンとのコミュニケーションを望んでいないのか!?
顧客は印刷営業パーソンとの”意味のないコミュニケーション”に貴重な時間を、取られたくない。単なる印刷の仕事をください…という「受注お願い営業」、助言・提案はなく指示待ちの商談、毎回同じような原稿作成と校正作業の繰り返し等、忙しい顧客担当者にとっては印刷営業パーソンとの商談時間は有益なのか? 印刷物の発注だけなら、もっと簡単で便利で、しかも安い方法があるのに…と思うのも当然かもしれない。

2.反面、ますます増える顧客の悩みと相談相手がいない状態。
今、顧客は自身のビジネスの、また業務の悩みを解決したくても、”気軽”に相談できる相手が誰かわからない…。印刷物は顧客のビジネスや業務の手伝いに使われており、印刷会社、そして営業パーソンはそこに密接に関係しており、本来顧客にとっては”身近”で”気軽”に相談できるサプライヤーのはずだが、印刷営業パーソンが、その役割を果たせるとは、少なくとも顧客は思っていない。顧客の悩みすべてのことに対応はできなくても、印刷会社が保有する多くの能力を活用することで役に立てることも多いはずだし、印刷会社を中継することで、安心して相談できるネットワークが広がる可能性があるはずなのに…、そのことに顧客は気づいていない。

3.本当に必要な費用なら何とか捻出する意志のある顧客は多い。
ビジネスや業務の悩みが解決できるなら、他の予算をやり繰りすることはできる…と多くの顧客は思っている。何故なら顧客は「重要」で「緊急」の課題を片づけたいからだ。
必要になった印刷物の発注の話ではなく、印刷物が必要になるもうすこし前段階で発生している顧客の悩みの相談先として、印刷営業パーソンを選んでくれれば、チャンスは一気に広がるはずだ…。

今こそ”人”による営業活動が重要な訳

[3つの理由]
1. 顧客の「潜在ニーズを顕在化」できるのは営業パーソンのチカラ…。
2. 顧客が「満たされないニーズ」をぶつける相手は営業パーソンだけ…。
3. 顧客担当者(人)は、営業パーソン(人)に”会う価値”があるはず…。

顧客は印刷営業パーソンとのコミュニケーションを望んでいないのではなく、単なる印刷物の発注だけなら介在しなくてもよい、無駄に多くの時間をかけずに仕事を済ませたいだけで、営業パーソンが介在しなくてもよいと思っているのである。しかしそれは営業パーソン不要論とは異なる。顧客は悩みを相談できる印刷営業パーソンとのコミュニケーションを望んでいる。その相手は印刷営業パーソンとは限らないが、取りあえずサプライヤーの中で印刷営業パーソンはもっとも近くにいるのも間違いない。そして顧客が悩みの相談相手として、印刷営業パーソンを指名するかは、印刷営業パーソンの日常の行動にかかっている。

今、印刷会社に求められる営業体制づくり

1.顧客と営業パーソンとの関係性の把握と改善
御社と重要顧客との取引関係は順調なのかどうかは、受注額の推移(結果)で評価しているのか? 重要顧客の担当者と自社営業パーソンとの人間関係は良好なのだろうか?
会社として把握しているか? どうすれば改善するか?

2.顧客との接点を増やす仕組みと仕掛け
引き合いをいかに増やすか? 受注案件をどう効率的に処理していくか? 重要顧客に対してどのように訪問頻度や接点を増やすか? 顧客接点で何をするのか? などのことについて会社は何をすべきか…

3.顧客接点での潜在ニーズ収集力とソリューション提案力
どんな顧客タイプに、どのような情報提供をすれば、ニーズ収集がしやすくなるか? 顧客の悩みを解決するための提案を、会社としてどのように教育・支援するのか?

4.顧客担当割り当ての全社視点での最適化
どんなタイプの顧客を誰(営業パーソン)に担当させるかを、自社都合ではなく、顧客中心に再配置するために、何が必要か?

まずは「営業の見える化」から

顧客から見て”実のある接点”を作るためには、会社が果たす役割が大変重要だ。個々の営業パーソンに「売上目標」だけを指示し、どんなタイプのどんなニーズを持つ顧客に、どんな情報提供をおこない、良好な関係を作り、どんな情報収集をし、どんな提案をし、需要を顕在化させ受注していくべきか…を任せっきりにして、結果としての売上金額だけを管理するだけで、後は放置しているとすれば、そんな印刷会社が成長できるとは思えない。
単純な印刷需要が減少し、顧客の悩みは多様化し複雑化する中で、”顧客接点の活性化”し、会社として持てる能力を結集し、何らかの解決策提案型の需要創造を目指すのなら、まず自社の営業パーソンの”思考と行動の見える化”から始めるべきだ。社内の制作現場や製造現場では、単位当たりのコストを設定し、作業時間を計測することで、「原価の見える化」による採算性向上の取り組みが当たり前のように行われているが、社外での活動である営業活動の「見える化」については、ブラックボックスのままであり、「営業の見える化」を実現しない限り、印刷業の成長ベクトルは上向くことは難しい。

                        田中 信一(株式会社ビジネスコミュニケーション研究所 代表取締役)

次回掲載予定
→「営業の見える化」シリーズⅠ-Ⅱ 『営業パーソンの思考の見える化』に続きます。


田中信一
株式会社ビジネスコミュニケーション研究所 代表取締役tanaka

【プロフィール】
■(社)日本経営士会認定経営士
■(社)全能連認定マスター・マネジメント・コンサルタント
■ハーマンモデル認定ファシリテータ

1956年生まれ、福井県出身。専修大学経済学部経済学科卒業後、株式会社桜文社(印刷業)入社。印刷営業や制作ディレクションを経験後、1989年に株式会社ビジネスコミュニケーション研究所設立。
印刷産業を中心に全国で講演、営業関係研修、コンサルティングを行っている。指導内容として「営業活動支援コンサルティング」「中・長期経営計画および年度経営計画の策定・実施コンサルティング」「営業管理職再生講座」「プロジェクト管理術」「営業革新」「業態変革」など多数。
■著作 
『消費・商品トレンド93-94』船井総合研究所刊(共著)、『こころときめく営業楽(学)1,2』日本印刷新聞社刊、『創注営業  実践バイブル』他がある。