野球型組織とサッカー型組織を対比することがある。しかし、それは今の時代にマッチしているのだろうか。
4年に一度のサッカーワールドカップが、2018年6月にロシアで開催される。今回も日本は出場できるが、それにしてもかつては、日本でサッカーは人気がなかったのに、いつのまにか熱が入っている。
もちろん全く人気がなかったわけではない。1970年には『赤き血のイレブン』が『週刊少年キング』に連載を開始、テレビアニメとして放映されるなど子どもたちの間にもサッカーブームを引き起こした。しかし当時は、『巨人の星』をはじめとして、野球のほうが圧倒的にマンガに描かれていたし、試合にしてもテレビが放映していたのは、ほとんどが野球(それも巨人戦)だった。
ちなみに野球は明治時代に日本に輸入されたもので、正岡子規が「のぼうる」を自分の俳号にしたのが最初であると言われている。子規の幼名が「升(のぼる)」で野球を「の・ぼうる」と読ませたものである。
よく野球人気、サッカー人気といわれるが、これは「猫と犬とどっちが好き?」と訊いているようなものだと個人的には思ってしまう。それぞれ好みがあるし、どちらがいいとか悪いとか、優劣をつけるべき性質のものではないと思う。
ところで、野球型組織とかサッカー型組織という言い方がある。ここであらためて野球型とサッカー型を簡単に比べてみると野球では、守備位置がしっかりと固定されており、攻撃と守備がはっきり分かれている。打者はバッターボックスに入り、ピッチャーと対峙する。作戦指示はベンチが行い、監督の意図した指示通り動くことがマストとされる。思い切り打ちたくてもバントしろと指示されたらするしかない。
サッカーでは、オフェンスとディフェンスが目まぐるしく入れ替わる。選手は常に全体を把握しながら行動する。つまり臨機応変に動くことが要求され、個人の力量に左右されることも多い。また監督に代わる司令塔が必要になる。
どちらの組織にしても問題なのは、指示がしっかりしていないとプレイヤーが混乱することである。そこはぶれてはいけない。例えば規律の厳しいピラミッド型組織だと上意下達は必須で、ボトムアップは許されない。会社も高度成長期には、社長の方針や上司の命令通りに動けば業績が右肩上がりになった。しかし、時代は複雑になり、一筋縄ではいかなくなった。
印刷会社に置き換えてみると、以前なら与えられた仕事をこなせば顧客から評価された。しかし、デジタル化によって最初に全体を把握する人材が必要になっている。「ワンソース・マルチユース」は古くて新しい考え方であるが、印刷会社の強みとすることができるかどうかも人材次第のところがある。ほかにも指導者が必要とされ、制作現場の司令塔は工場マネージャーであり、プリンティングコーディネータであり、そして経営全般を見るのは経営者である。
最近ではスポーツ人気も分散してきているし、野球とサッカーだけに絞る必要もない。「20世紀は組織の時代で、21世紀は個性の時代」とも言われることがあるように、いかに個性を表現できるのかが人を生かす道だと思う。組織もこの二者択一に限定する必要もないだろう。
両方のいいところを採択して、そこに他の要素も織り交ぜながら、自社に合った組織を作り上げていく。しっかりとした組織運営ができるかどうかは、経営者の信念によると思う。そこでモチベーションの喚起をすることが経営者の役割になるだろう。個性を生かしてこそ組織が伸びることにかわりはないのだから。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)