本誌をオールデジタル印刷化してから約1年が経過し、さらにステップアップするべくRGB入稿その他に挑戦する下調べとして、ロゼッタパターン(30°モアレ同士の二次モアレ)を含む網点の重なり具合や見当ズレによるトラブル、トラッピング処理周りを検証するための基本的なテストを行ったところ、愕然としてしまった。
かつては「チョーク&スプレッド」
本誌をオールデジタル印刷化してから約1年が経過し、さらにステップアップするべくRGB入稿その他に挑戦する下調べとして、ロゼッタパターン(30°モアレ同士の二次モアレ)を含む網点の重なり具合や見当ズレによるトラブル、トラッピング処理周りを検証するための基本的なテストを行ったところ、愕然としてしまった。昔はCMBkの3版が重なる部分には細心の注意を払って対処したものだが、明らかにロゼッタが目立つはずの網%の重なりでも目立たないのだ。それは、オーバー200線という高精細網点とドット形状をRIPやデジタル印刷機メーカーが研究して、ロゼッタなどのトラブルを回避しているからである(ハイライト・中間・シャドーそれぞれでAMとFMの混在具合を調整するなど)。網の重なり具合も、本誌の本文ページはインクジェットで印刷しており、もともとディザ網点っぽいのでロゼッタパターンは出にくいのだ。これなら「RGB指定を4色分版しても問題ないかなぁ?」と思い始めているが、言い切るのはまだ早計なので、今は口をつぐんでおく。
そしてトラッピング処理なのだが、DTP創生期には「チョーク&スプレッド」と言う方が一般的であった。チョークという英単語は一般的でない割には、ほとんどの日本人がプロレス技の「チョーク(首絞め)!」で知っていたのだ。当時はジャイアント馬場とアントニオ猪木という二大スターがいて、プロレスはエンターテインメントの代表だったのである。
図1にバングラディッシュの国旗を掲載しているが、緑地部分を赤マル方向に伸ばすことを「チョーク処理」と呼び、赤マルを外側に大きくするのはそのものズバリ「スプレッド処理」と言っている。“Come”と“Go”のように、よくよく考えると日本人と欧米人の発想は真逆のことが多くて、当時はまだ若かったので「どっちがチョークなんだろ?」と考え込んでしまったことを思い出す(緑地側から考えたらスプレッドなのでは?と)。
実際、どのようにDTPでトラッピング処理を行うのかというと、Illustratorのトラップ機能を使うのが一般的だ。同じIllustratorでも、二重線で描く場合には完全マニュアルだし、特別にトラップ機能だけで別途市販されていたりする。軟包装用にはトラップ機能が必須で、その量も複雑さも桁違いなので、高機能なトラッピングソフトが不可欠なのだ(高額?)。なお、Illustratorの注意事項として、トラップ処理はCMYKモードだけで通用する機能であり、印刷対象限定機能である。
墨ノセにおける欧米との違い
トラッピング処理といえば、チョーク&スプレッド以外に「オーバープリント」がある。いわゆる「ノセ処理」のことだ。そのノセ処理の中でも一般的なのが墨ノセである。色地(イラストや色地紋)に墨文字を配置する場合、下地を抜き合わせや毛抜き合わせ処理をしなくても、墨インキはオールマイティーのごとく強いので、下地はそのままにして墨文字などをそのまま印刷してやれば、少々位置がずれても全く問題ないというのが墨ノセの考え方だ。明朝体の細い横棒を毛抜きにするのは至難の業なので、日本の印刷の常識として「墨ノセは基本のキ」である。
一方、欧米では墨インキの濃度が日本より低く、下地が透けてしまうので、抜き合わせにしないと下地の模様が透けて見えてしまう。そのため、欧米では原則として墨ノセは行われていない。だが、完全なヌキにしてしまうと墨の濃度も低いのでスカスカブラックになってしまい、シアン60%くらい(印刷条件によって異なる)を下地に敷く処理などが必要になる。これがリッチブラック処理である。
デジタル印刷ではゼロベースで考え直す
このように、日本の高品質印刷が育った背景には、文字文化などのさまざまな要因があるのだ。明朝の細線もハッキリ再現できるように墨インキの濃度やタック値も高く、それに耐えるため紙も表面強度を有するようになったのだ。
だが、今後デジタル印刷が普及すると、オーバープリントやトラッピングからしてゼロベースで考え直さないとイケないのかもしれない。総インキ量350%なんて、デジタル印刷(通常200%程度)では絶対に考えられないからだ。page2024(まとめ報告を行いたい)までの間、JAGATでは印刷会社やメーカーの協力を得ながらこの辺をテストしていくが、テスト結果⇒新常識?を報告しながら進めていきたい。
(専務理事 郡司 秀明)