会員誌『JAGAT info』の表紙のデザインは、印刷文化を語る上で欠かせない、色と形の魅力をテーマにしている。
現在は「日本の形シリーズ」として、本誌の発行時期の歳時や風物をモチーフにしたイラストを主体に、和紙のテクスチャーや日本の伝統文様を組み合わせて、季節感と日本情緒が感じられるようにデザインしている。
最近のバックナンバーから、表紙に描かれたモチーフについて解説し、制作手法を紹介する。
2023年6月号 「露草」
露草は全国の至る所に自生し、夏には小さな青い花を咲かせる。
その蕾は複数個が連なり、苞(ほう)と呼ばれる円を二つ折りにしたような形の葉に包まれている。
一つの花は朝開いて午後にはしぼんでしまうが、その後ほかの蕾が順番に苞から顔を出して花を咲かせていくので、ずっと花が咲いているように見える。
雄しべは、前に突き出たO字形が2本、真ん中のY字形が1本、花弁に近いところのX字形が3本と、3種類で合計6本ある。
制作に当たっては、色鉛筆で描いた露草をスキャンして、Photoshop上で、和紙のテクスチャーと合成。そして露草に似合うしとしととした雨を、浮世絵などの表現に倣って、直線で表現した。
2023年7月号 「ニッコウキスゲ」
ニッコウキスゲはゼンテイカの別名で、日光の霧降高原・尾瀬・霧ヶ峰高原などの群生地が知られている。花期はおよそ6月~8月で、満開時には、ユリに似た形の黄色い花が草原を覆う光景が見られる。
朝咲いて夕方にはしぼんでしまう一日花。花弁は見た目は6枚あるように見えるが、外側の3枚は萼が変化したもので、本来の花弁は3枚である。
変種がいくつかあり、例えば北海道などにはエゾカンゾウ、東京都府中市都立浅間山にはムサシノキスゲが自生している。
画面全体を色鉛筆で描画し、スキャンした後、色味の調整を行った。
2023年8月号 「金魚」
金魚の元祖は、中国で発見された突然変異の赤いフナだといわれている。その後交配を重ねることで、数多くの品種が生まれた。
その例として、フナに近い体型の和金、丸みをおびた体型の琉金、頭に肉瘤があるオランダ獅子頭、背びれがないランチュウなどがある。
制作に当たっては、個々の金魚を色鉛筆で描き、Photoshop上で配置、バックに和紙のパターンを配置し、正円のパスに色を設定して波紋を表現した。
今後も「日本の形シリーズ」は続く。季節感を感じさせるモチーフというと、どうしても植物が多くなってしまうが、そのほかの生き物や工芸品なども取り上げたいと思っている。多忙な日々を送る読者の方々が、本を手に取る一瞬にホッと一息ついていただければ幸いである。
(JAGAT 研究調査部/『JAGAT info』制作担当 石島 暁子)