2023年10月31日発刊の『印刷白書2023』について、会長塚田司郎よりご挨拶させていただきます。
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今年は3月に開催されたワールドベースボールクラシックで大谷翔平選手の活躍もあって侍ジャパンが優勝し、日本中が歓喜に沸きました。また、5 月に政府が新型コロナウイルス感染症を5類に移行したことにより、サービス業などの内需の回復が見られます。一方、温暖化による気候変動の影響は、今年も日本各地に大雨をもたらし甚大な被害を及ぼしました。8月下旬には、福島第一原子力発電所で処理水の放出を開始したことに中国が反発し、輸入規制をするなど日中関係が悪化しています。
5月の連休が明けて、長かったコロナ禍での生活も終わり、再びかつての日常が戻ってきたことで、後半は経済も上向いて需要も戻ってくるのではと期待されました。一方で、今年は3年間にわたる需要減や諸物価の上昇、各種補助金の終了、3年前のゼロゼロ融資の返済の年であることもあり、年度予算がタイトな企業も少なくなかったのではと考えられます。Web会議サービスの浸透やさまざまな新しい法律の施行、いまだに終わらないウクライナ侵攻の影響などで今後の印刷需要予測もやや不透明になっています。
現代はデジタル経済と実体経済が並行して走っている状況です。デジタルメディアでは検索のたびにエンジンが学習して個人の趣味嗜好に合った提案をするように、印刷でもユーザーの購買履歴をRFM 分析して、バリアブルプリントで個人の興味を引くDMを作成したり、ニッチな分野でより少部数の本やパンフレットなどを提供することが求められます。そのためには、よりいっそうコストと品質のバランスが取れたデジタル印刷機が必要になります。
さらに環境問題があります。IPCCの最新レポートでは、世界平均気温は産業革命以前と比較して1.1℃上昇していて、パリ協定の1.5℃目標を達成するには、従来の各国の温室効果ガス削減目標では足りないと指摘しています。国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化ではなく地球沸騰化の時代が来た」、最近では「人類は地獄への扉を開けた」とも発言しています。
環境負荷の点では、紙の抄造工程では大量の水とエネルギーを使用し、PS版の製造においても負荷は少なくありません。需要の減少している現在、製紙メーカーはエネルギーを消費する側から電気を作る側となって、今では紙の代理店が売電も行っています。世界的にアルミの需要が旺盛なこともあり、PS版の工場も一部閉鎖されています。どんな印刷方式にせよ、必要以上に大量に紙や資材を消費することは、食品や衣料品のようにロスにつながり持続可能とは呼べません。インキの乾燥では電力消費量の大きいオフ輪のヒートセット方式や、パッケージのUV乾燥も今後の課題です。
他の産業と同様に、印刷企業もDXや生成AIで業務効率を改善し、事業転換を進めていくことが求められています。今年もこの白書がそうした企業の前進に役立つよう願っています。
2023年10月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 塚田司郎
書籍発刊のお知らせ
『印刷白書2023』2023年10月31日発刊