動画生成AIの怖さと広がり
動画生成AIは急速に進歩している。2023年10月下旬から生成AIでニュース番組に似せた偽広告がYouTubeやSNSで配信されていることが一斉に報じられた11月1日付のNHKによれば生成AIを使って実在のアナウンサーの声や動きを再現したとみられ、偽動画はサイトへの登録を促す内容で番組に似せた偽動画を作られた日本テレビが注意を呼びかけているとうものだ。この動画は、音声と口の動きが一致していないので一目で見破れたというが、近い将来に識別が困難になることは明らかで、削除されたとしても類似の動画が次々とアップされることが懸念される。進歩に対しては規制も必要だろう。
一方、生成AI活用は、凄まじい広がりをみせている。2023年9月21日に米YouTubeは、生成AIを活用した動画制作の支援機能を年内に導入すると発表した。この新機能により、ユーザーは入力した文章に基づいて動画の背景を自動で生成でき、動画制作のプロセスがより効率的になるという。この新機能「Dream Screen」は年内に提供開始予定で、YouTube Shorts(YouTubeショート)で活用できる。最大60秒までの縦型動画を作成、編集、共有できるサービスで、YouTube Shortsは、スマートフォンのカメラを使ってどこでも縦型の動画を撮影・共有できる。スマートフォンで動画を撮影したら、あとは編集を加えて微調整するだけ。録画速度の調整、フィルタの適用、複数の動画の連結、字幕の追加などの編集を行うこともできる。
生成AIで変わる仕事と求められる仕事
SNSでの動画コンテンツの普及は、動画関連ビジネスも大きく変わると考えられる。2023年4月21日に公開されたビジネス映像メディア「PIVOT」のYouTubeチャンネルでは、明石ガクト氏(ワンメディア 株式会社CEO)と佐々木紀彦氏(PIVOT株式会社CEO)の対談「生成AI時代の動画ビジネス」がなされ、ビジネスにおける動画編集者は要らなくなるという 動画制作会社にとって は衝撃的なフレーズ もあった。明石ガクト氏によればAIが生成する情報の精度は「学習するデータがネット上にあるかどうか」だという。AIの捉え方として「相対」と「絶対」の見方があるという。AIはインターネット上の莫大なデータより相対的に判断し答えを導き出すという特徴がある。それに対して絶対的判断は、人が独自に判断することで人間関係づくりや業務のやり繰りなどの人が主体的に判断する事柄だ。AIと共存する上でのキーワードになる。
SNSを生成AIにおける写真や動画などのデータを集めるプラットフォームとして捉えればどうであろうか。Facebook、Instagram、TikTok、YouTubeなどには膨大なデータが集まっているが、これらの豊富なデータをAIが学習するとすれば生成AIが出す相対的な答えの精度は上がる。動画生成AIを活用する環境は整ってきている。動画制作の仕事では、時間やスキルが要らなくなってくる。AIや安価なアプリケーションや機材などの普及によりプロとしての参入障壁も低くなっている。スキルは著しくコモディティー化していくと考えられる。さらに、同氏によれば、ChatGPT(GPT-4)などの大規模言語モデル(LLM)を使いこなすために必須のスキルとされるプロンプトエンジニアリングも簡単になるという。
人が取り組む仕事は、AIに真似ができないことだ。ライター、動画編集、CG制作などの部分的な仕事は、競合としてAIが入ってくる可能性が高い。絶対的な価値を生む仕事の中には、ディレクターという各作業を束ねる上位概念ある。人が自分の意志で判断し決定する業務だ。その範疇では生成AIを使えるスタッフが増えたと捉えることもできる。AIを使う側である。動画ビジネスでは、規模の小さな会社や経験の少ない印刷会社などはショート動画から始めるのも良いであろう。ディレクターという全部を束ねる仕事を経験し、ノウハウを蓄積していくことができるからだ。規模は小さくても意思決定できる立場や経験を積み重ねることが大切だ。生成AIの時代は、作業をする人とマネジメントをする人に大きな差ができてくるという。マネジメントにおいては、AIが苦手とされる事柄が多い。人の気持ちを汲み取る人間関係づくりや個性、パーソナルな判断、クリエイティブな力が必要とされる業務だ。人が利用するAIを理解し、人間関係とAIとの関係が上手く構築できれば仕事の可能性は広がりそうだ。
(CS部 古谷芸文)