ニュースへの信頼の低下や、ニュースを意図的に避ける傾向は日本では見られないが、ニュースへの関心の低下が続き、シェア&コメントがされなくなっている。(数字で読み解く印刷産業2023その10)
ニュースへの入り口はアグリゲーター
ロイタージャーナリズム研究所「ロイター・デジタルニュースリポート2023」によると、オンラインのニュースに触れる方法として、ニュースのWebサイトやアプリを直接開く割合は、2018年の32%から2023年は22%に減少し、ソーシャルメディアを使う割合は、逆に23%から30%に増加しています。その他の方法としては、検索25%(2018年比1%増)、モバイルアラート9%(同3%増)、ニュースアグリゲーター(ニュースをまとめて確認できるように、各社の記事をまとめて表示するWebサイトやアプリ)8%(同2%増)、Eメール5%(同1%減)です。
この傾向は国による違いが大きく、調査対象の46カ国・地域のうち、フィンランド・ノルウェー・デンマークでは直接が50%を超えているのに対して、タイ・フィリピン・チリではソーシャルメディアが50%を超えています。一方、日本では検索+アグリゲーターの利用が65% 、直接は12% 、ソーシャルメディアは10%で、韓国・台湾も同じような傾向にあります。
国による違いとは別に、年齢層によっても大きな差があって、日本でも世界でも、若い世代はソーシャルメディアを通じてニュースを得る人が増えています。
アルゴリズムへの懐疑的な見方の強まり
2023年の報告書は、生活費の高騰や異常気象、ウクライナ侵攻などの危機が続く中で執筆されたことから、「こうした状況下では、正確で、安定した財源に支えられた、独立したジャーナリズムの存在は極めて重要だが、調査を行った国々の多くでは、信頼の低下やエンゲージメントの低下、不確実なビジネス環境などによって、厳しい課題に直面していることが浮き彫りになった」と分析しています。
また、「信頼性にばらつきがあったり、嫌がらせや誤情報のリスクがあったり、時として経営やデータ保護の問題があったりという、重大な懸念があるにもかかわらず、どこの国でも圧倒的にデジタルメディアが選ばれている」としています。
個々人の閲覧歴に基づいて取捨選択されたニュースを見ることについて、良い方法だと答えた割合は30%で、2016年から6ポイント減少しました。ただし、編集者やジャーナリストに選んでもらうのが良い(27%)よりも、アルゴリズムのほうがわずかながら多くなっています。
ニュースへの信頼は、調査全体で40%、コロナ禍で上昇した分が反転し前年に比べ2ポイント低下しました。フィンランド(69%)やポルトガル(58%)などの国で信頼度が高く、アメリカ(32%)、アルゼンチン(30%)、ハンガリー(25%)、ギリシャ(19%)など、政治の分断が進んでいる国は低くなりました。日本は42%と平均並みです。
ニュースへの関心が低下し、議論も低調
ニュースを意図的に避ける「ニュース回避」は、全体では36%、ギリシャ・ブルガリアが各57%で最も高く、逆に日本は11%で最も低くなっています。
一方で「ニュースへの関心」の低下は、各国で進んでいます。ニュースに全く触れない層も増え、日本は17%で世界で最も高くなっています。
インターネットによって民主的な議論が広がると期待されたにもかかわらず、オンライン上でニュースにコメントしたり、議論に参加したりする人は、近年、少なくなっています。積極的に参加する人は調査全体で22%、日本は6%と世界で最も低く、政治に対する議論の少なさも際立っています。
デジタルの時代において、ニュースはこれまでの届け方とは明らかに異なる形にシフトしており、受け手の選択肢も多様化していることは数字上からも見て取れます。
ニュースが不可欠な理由はなぜか、プロのジャーナリストによるその質の高い価値を今一度再認識することが必要になります。
10月末発刊の『印刷白書2023』では、新聞業界欄「メディアの使命を果たし続けるためのデジタルシフト」において、新聞の存在意義や、ネットの中でジャーナリズムはどう機能すべきかについても考察しています。
限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。
(JAGAT CS部 吉村マチ子)