コロナ禍明け初年となった2023年は、国内は物価高騰、国外はウクライナ危機に中東危機と不透明感がさらに濃くなった。とはいえ、売り上げ増も珍しくなくなり、いつになく明るい声も聞かれる。年末時点で見えている材料をもとに振り返る。
■2023年:売上高:デフレ時とは一変
営業環境は基本的に2022年までの流れを引き継いで堅調だった。11月までで売上高が減少したのは6月と10-11月の3ヵ月だけ。初夏以降に伸び悩み始め、秋以降に勢いを失ったが、大きく落ち込むには至らず年間はプラスで着地する公算だ。受注の減少を価格の修正と新たなサービス開発が補う経営構造に変わっていることによる。他にも要因はあるが、用紙出荷量と売上高の連動性が薄れた。かつてほどには印刷会社の業況を表さなくなってきている。
■2023年:製品別:出版の低迷、事務の安定、商業の回復、包装の好調
商業印刷の復調が著しい。しかし商業印刷とは言っても、チラシのような配布系からサインのような表示系、ポスティングやDMのようなピンポイント系へのシフトが起きているので、商業印刷の概念自体が変わっている。逆に、巣篭もり特需の剥落した出版印刷の低迷が長引く。事務用印刷は既にPODに、あるいはBPOになっていて、時折り政策需要なども出てくるので市場は小さくなったが安定的だ。包装印刷は手堅い需要があるうえにインバウンド回復がさらなる追い風になった。
■2023年:景況感:業界は低位漸増、投資はソフト志向、価格は上げ幅縮小
業界の景況感は深いマイナス圏にあって一進一退でゆっくり改善する歩みが続く。他方、経営の景況感は±0近傍なので、業界の状況が芳しくないなか、各社は自助努力などで業績を維持している構図で、これが従来と異なる点だから、要因分析と理解が必要だ。投資意欲は設備、人材採用、システム開発の順で高い。投資は設備よりは人材、人材よりはシステムといったプライオリティだ。史上最高だった資材料単価は4四半期連続で上げ幅が縮小して極端な急騰は落ち着き始めた。史上初の継続的上昇を観測していた印刷単価は、伸び率は鈍化しつつも値上がり基調は保っている。
■2024年:印刷経営者の見方
JAGAT会員34社の24年見通しのコンセンサスは、売上高は伸び率減速も増加傾向を維持、営業利益は改善に向かう、といったもの。回答社には12/29にレポート9枚を送付した。34社の自由記述をAIテキストマイニングすると、23年はメインテーマの「コロナ禍」を「資材料」「高騰」「価格」といったサブテーマが取り巻く状況だったことがわかる。まだ「厳しい」が、「5類」を機に「戻る」「回復」「増える」「成果」といったポジティブなワードが「コロナ禍」の周囲に並ぶようになった。悲観さがかなり後退する数年来なかった変化が起きている。
■2024年:印刷経営の施策
24年は様々なイベントが多く派生的な印刷需要創出には事欠かない。34社の24年施策に関する自由記述をAIテキストマイニングすると、核にある「事業」を、生産体制、サービス開発、デジタル対応が取り巻く様相になっていることが判明した(24年見通し調査結果は回答者限定)。デジタル印刷や商品開発といった個別テーマではなく、最大の関心事はもっと俯瞰的な視点からの再編と創造に変わった。「新しい」「明るい」といったポジティブなワードが例年より目立ったことも24年見通しの特徴だ。さらに分析を進め下記カンファレンス等で明らかにする。
藤井建人(JAGAT 研究調査部)
<関連セミナー・展示会>
2024年2月 5日(月) page2024オンラインカンファレンス
2024年の印刷ビジネス展望 ~事業創造の経営に向けて
2024年2月5日(月)~13日(火) page2024オンラインセッション(計12本)
カンファレンス+セミナー
2024年2月14日(水)~16日(金) 3日間のリアル展示会
page2024展示会
<関連書籍・レポート>
JAGATinfo 2024年1月号
印刷白書2023
JAGAT印刷マネジメントブック2023