マスター郡司のキーワード解説:デジタルサイネージDOOH-その壱

掲載日:2024年7月10日

印刷業とクロスメディアビジネス

私は「デジタル印刷最前線」の取材で印刷会社を訪問することが多いのだが、印刷会社に必要な資質として「マーケティングは必須」だと強く感じている。特にデジタル印刷では、マーケティングを考慮したうえで商品開発を行わないと、デジタル印刷物はタダの小ロット印刷物でしかなくなってしまう。

近未来の印刷ビジネスでは、デジタル印刷とともに考えなくてはいけないものがある。それはウェブやデジタルサイネージなのだが、一昔前はクロスメディアビジネスと呼ばれており、印刷業がビジネスを多角化する際の登竜門のように言われていた。しかし、「儲かる? 儲からない??」という規準で考えると、難しいのである。つまり、印刷ビジネスは必要経費から逆算すればよいので、儲けを得ることは比較的簡単であった。だが、クロスメディアビジネスはどのようにして儲けるのか、儲けるためのビジネスモデル構築が難しく、「クロスメディアは儲からない」と敬遠してしまった印刷会社も多かったと思う。

その難しいクロスメディアビジネスの中でも、ウェブ製作は印刷会社としては今や必須スキルだと考えている。今回は触れないが、いずれスペースを割いて解説していきたいと思っている。さて、私はコンテンツビジネスという点で「印刷会社に適しているのでは?」と思い、デジタルサイネージビジネスに注目してきた。デジタルサイネージは1990年代に登場したメディアだが、本格的な普及は2000年に入ってからだと思う。個人的には、JAGATに正式入職したのと同時期に印刷業界がデジタルサイネージを本格的に扱い始めたので、数多くのセミナーを企画した思い出が懐かしい。また、JAGAT内で使用するデジタルサイネージとして韓国製のサイネージを採用するなど、印刷業へのデジタルサイネージ普及のお手伝いもさせていただいた(定価で購入しましたヨ)。

デジタルサイネージが印刷業界に向く理由

デジタルサイネージによるコンテンツビジネスが印刷業界に向いているというのは、「PDFを使用すれば、印刷物とデジタルサイネージでコンテンツを共有できる」という発想からであった。要するに、ワンソースマルチユースである。現在のサイネージコンテンツは動画が中心となっているため印刷会社は手を出しにくくなっているが、動画領域にも進出している印刷会社も多いので、ストーリー性のないコンテンツであったら、動画コンテンツが中心になっても「印刷会社のビジネス」ということができるだろう。

デジタルサイネージを用途で考えると、「屋外」と「屋内」とで異なる。外気に触れる屋外の場合、完全防水が必須となるが、「交通広告」というジャンルも重要な用途として考えられる(駅やショッピングモールにおける通路や広場など)。最近は電車内の中吊り広告が減っているように感じられるが(私が使っているJR山手線と東京メトロ丸ノ内線でも右肩下がりに感じるのだから、地方では??)、とりわけ駅のホームに並行した線路脇の対面ポスター(看板)に白地(アキ)が目立つようになっている。

デジタルサイネージの可能性

さて、タイトルに記したDOOHとはDigital Out Of Homeの略で「屋外のデジタル広告」のことであり、Dを除くOOHは屋外広告全般を指している。車内の中刷り広告の差し替え(やポスターの貼り替え)などの手間は相当なものだと思われるが、デジタルサイネージだとコントロールセンターで一括管理が行える。そのうえ、ユーザーデータなどを分析しながら広告宣伝に活用することができるようになるため、より価値の高い宣伝活動も可能になるといわれている。

例として、東京メトロ南北線で説明しよう。南北線は東京都品川区の目黒駅から北区の赤羽岩淵駅まで東京を南北に貫く路線であるが、赤羽岩淵から先は埼玉高速鉄道に相互乗り入れをしている。一方、目黒以南でも東急電鉄目黒線に相互乗り入れをしており、神奈川県に伸びている。その沿線風景はバラエティーに富んでいて、車内のデジタルサイネージのコンテンツも、北部の区間であったら浦和レッズ、南部は横浜マリノスといった運用も可能であるし、宣伝効果もある。

だが、「地域格差だ!?」などといった逆クレームが出てくる可能性もあり、現在そのような運用はまだ行われていない。印刷物だと高級外車の宣伝を東京都の千代田・中央・港区エリアだけに限定配布することや新聞紙面を選択印刷することも試された実績があるのだが、デジタルだとあらゆる意味で難しくなるのだろう。

(専務理事 郡司 秀明)