自社の強みを見付ける際のヒントとして
 −『JAGAT info』7月号のご案内−

掲載日:2024年7月16日

 「江ノ島鎌倉観光」という、かつて存在した会社名をご存じだろうか。この会社は1981(昭和56)年に「江ノ島電鉄」と会社名を改めている。いわゆる「江ノ電」である。
 江ノ電は藤沢〜鎌倉間を結ぶ全長10kmの路線であり、1902(明治35)年に藤沢〜片瀬(現:江ノ島)間で開業した江之島電気鉄道をルーツとしている。江ノ島・鎌倉方面を観光・散策する際になくてはならない公共交通機関であり、特に近年は「SLAM DUNK」の世界的なヒットによって、アニメのオープニングに登場する鎌倉高校前駅付近の踏切に観光客が大勢訪れているといったニュースに接した方もおられるだろう。または、道路上を走る腰超〜江ノ島間の写真や映像を見たことがあるという方もおられるかもしれない(余談だが、このような区間は「併用軌道」と呼ばれており、夏祭りの時期に神社の神輿などが江ノ電のすぐ横を練り歩くさまは圧巻である)。

 さて、現在でこそ大賑わいの江ノ電だが、江ノ島鎌倉観光であった時代に廃線の危機が訪れていたといわれたら、意外に感じられるのではないだろうか。実は昭和30年代後半以降、道路網の整備拡充とモータリゼーションの波に押されて、廃線が検討されていた(参考リンク:モータリゼーションと江ノ電)。しかし、テレビ番組で取り上げられたことなどが幸いして注目を集めるようになり、地元民の足としてはもちろん、観光客向けの路線としても認知度を高めていったのである。
 ところでこの時代、モータリゼーションの影響によって運行を終了した、あるいは存続の赤信号がともり始めたという鉄道路線は結構多い。これは地方だけに限らず、事情はやや異なるとはいえ都市部でもそうであった。その典型例が、「都電」の路線網の大幅な整理縮小である。これを印刷産業になぞらえると、モータリゼーションに該当するのが「ペーパーレス」「電子メディアへの移行」などであろうか。

 先の江ノ電の場合は、モータリゼーションという外部環境の急激な変化に対し、テレビ放映などの要因に加えて、沿線独自の事情(道路渋滞の慢性化など)もプラスに作用した例であるといえる。とりわけ後者の要因は、鉄道は渋滞知らずであるという「自分たちの強み」と読み替えることができよう。地方ローカル線としては異例の路線延伸への動きが進む「ひたちなか海浜鉄道」(旧:茨城交通湊線)でも、並走する道路の渋滞の深刻化がその背景にあるという。もちろん実際の話はそう単純ではないだろうが、やはり鉄道の強みを地道に各方面に訴え続けてきたことが延伸の機運醸成につながっていったのだと、執筆子は評価している。
 「自社の強み」などというと、自社に何か特別なものがないといけないのではないかと、つい思いがちである。だが、実は意外なところに「強み」があるのかもしれない。第三者から見たら「強み」であっても、自分たちはそれを「当たり前」のことだとして見落としている可能性もある。だからこそ、弊会が実施している各種調査や催事などを、自社の強みを探し出すためのヒントとして活用していただけると幸いである。

 

『JAGAT info』2024年7月号のご案内

◯特集
 「2023年度印刷産業経営力調査」経営分析
 インフレにおける印刷会社経営のロードマップ
 価値創造モデルの構築に向けて

 毎年恒例の会員企業を対象にした2023年度の「印刷産業経営力調査」の結果がまとまった。有効回答企業106社の平均従業員数は133人、平均売上高は29億円。売上高は2年連続の増加、営業利益も2年連続の黒字を達成したことで、2015年に次ぐ規模に回復した。生産性も軒並み改善している。
 その一方で、物価高騰の影響を受けて営業利益率は3年ぶりに低下。また、コロナ対策関連の補助金もなくなり、経常利益率は4年ぶりに改善が止まって2%台に低下した。地域や規模による収益性の格差が拡大するなか、とりわけ東京に立地する企業の低迷が顕著になっていることが特徴だといえる。
 ご回答いただいた皆様には、改めて御礼を申し上げたい。

◯特別企画
 page2024開催報告
 営業初心者をあっという間に戦力化する「チームマネジメント」

 印刷会社が市場で勝ち残っていくためには、優れた営業力が必要である。そして、営業力の強い会社では、チームマネジメントの技術を用いたチームプレイで営業に臨んでいる。
 特別企画では、2024年2月5日に開催したオンラインセミナー【S1】の講演要旨を収録。力を合わせるための技術であるチームマネジメントについて運用手順を通じて考えると同時に、チーム営業のメリットや従来型の個人営業から移行する際に必要なことなどを考える。

(『JAGAT info』編集部)

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