マスター郡司のキーワード解説:
デジタルサイネージ(その弐) リテールメディア

掲載日:2024年7月29日

電車内の印刷物は寂しい状況?

前回に引き続き、デジタルサイネージについて解説していきたい。デジタルサイネージコンテンツといっても、電車内や駅構内のデジタルサイネージで流れている交通広告コンテンツは、テレビコマーシャルで放送されている全国区の動画コンテンツ(から音を外したコンテンツ)が中心となり、これは大手広告代理店が絡む全国区コンテンツの範疇である(印刷会社の動画ビジネスには関係がないとは言い切れないが、やはり「餅は餅屋」で動画屋さんの方が制作に向いている)。これは余談になるが、私が普段使っている通勤路線は東京メトロ・JR山手線・東武東上線なのだが、前回も「電車内の中吊り広告などの印刷物が寂しくなっているのではないか?」という趣旨のことを記した。東京メトロと山手線は別格として(これらまで寂しくなってしまったらオシマイ?!)、東武東上線の車内印刷物がメッキリ減ってしまっているのを最近痛感している。正直なところ、さまざまな点で考えさせられてしまい、印刷メディアの近未来にも思いを巡らせている。

リーセンシー効果との親和性

さて、現在注目されているデジタルサイネージの関連ワードに「リテールメディア」がある。リテールメディアの定義はさまざまであるが、小売店が各店舗内に設置しているデジタルサイネージや、ECサイト上の各種オンライン広告(媒体)のことを指している。つzまり、「小売店が媒体運営会社として提供している広告媒体」のコトなのである。小売店の顧客データ(購買データや、小売店が提供するアプリの利用ログなどの行動データ、小売店が独自に収集・所有できるデータ)を使用できるメディアということなのだ。

このことをマーケティング用語では、リーセンシー効果が高いという。非常に分かりやすく例えると、牛肉売り場にデジタルサイネージを置き、そこに焼き肉のタレのコマーシャルを流せば、牛肉と焼き肉のタレがよく売れるということだ。このような接点(接触の感覚)をリーセンシーと呼び、上手な仕組みのことを「リーセンシー効果が高いデジタルサイネージ」などと表現する。英語なので「リセンシー」と発音されることもあるが、マーケティングがますます高度化するなかで使用される言葉である。そして、リテールメディアが注目されることになるのだ。

リテールメディアに関しては「?」を示すマーケターも少なくない。特に折込チラシを長年手掛けてきた方には、例えば和牛の宣伝には、料理そのものである「すき焼き」「焼き肉」などを進めるテーマ性を持ったチラシよりも、「高品質和牛がこれだけお買い得!」といった直接的宣伝のほうがより効果が出るという意見をお持ちの方が多いのだ。要するに、宣伝のターゲットは「主婦」という“プロ”なので、「どういった料理がよいのか?」「その料理のためにはこのような材料をプラスすると、ビックリするくらいおいしくできる(+レシピ)」的な情報は必要ないという考え方である。

だが、個人的には、この考え方には少々疑問符が付いている。例えば私が買い物に行ったときに、肉売り場でしゃぶしゃぶの試食やタレに関したデジタルサイネージがあると、かなり引っ張られてしまうのだ(90%強?)。女房にもその傾向はあると思うのだが、昭和のプロフェッショナル主婦らしさなどみじんもなく、私に毛の生えたようなもので、リテールメディアに大きく影響を受けてしまう。“プロの主婦”という考え方は、実は少し前までだけに通用する概念(?)ではないかと私は思っている。

印刷業とリテールメディアコンテンツ

欧米のリテールメディアは実績も挙げている。店舗用のデジタルサイネージコンテンツにはウェブサイトへのリンクなどでのノウハウがもちろん必要なのだが、例えばウォルマートではリテールメディアの売り上げが5,100億円の規模である。電通や博報堂に次ぐ規模だ。私がここで強調したいポイントは、このリテールメディアコンテンツなら印刷業にも手が出せる(むしろ出すべきでは)と思うのだが、いかがだろうか?日本の主な購買層は変わってきており、スーパーマーケットの商売の仕組みも変わらざるを得ない。VUCA(不確実性が高く、将来の予想が困難な状況を意味する造語)の時代といわれる現在、マーケティングの基本中の基本である「PDCA」サイクルも「OODA」(「ウーダ」と発音する)に取って代わられようとしている。そこで、次回は「デジタルサイネージ(その参)」として、最新のマーケティングの基礎を解説していきたい。

 

(専務理事 郡司 秀明)