WebページでのPDF参照が好ましくない理由

掲載日:2024年8月23日

PostScriptとPDFの違い

PC上で文字や画像をレイアウトするDTPが発展したのは、ページ記述言語(プリンター制御言語)であるPostScript技術という基盤があったからこそである。単一のレイアウトデータをモノクロやカラーのプリンター、またはフィルムセッターへの分版と必要に応じて出力できること(デバイス・インディペンデントと呼ばれている)は、文字通り画期的であり、その後の印刷技術の革新に繋がったといえる。

PDFは、PostScriptからプログラミング要素を取り除き、ページ単位に変更したもので、電子ドキュメントフォーマットとして誕生した。フォント埋込みが可能であり、レイアウトを完全な形で維持できるという特徴がある。汎用的な電子ドキュメントのフォーマットとして、Webでの情報発信・交換が日常的となった現在でも、広く利用されている。

印刷データ交換におけるPostScriptは、その後、PDFに置き換えられた。ワークフローRIPと呼ばれるPDF-RIPが普及したことで、さまざまな印刷トラブルが激減し、信頼性が向上したといえる。

つまり、現在のPDFは電子ドキュメントとして世間一般に広く利用されている一方で、印刷業界では、印刷データ交換技術として重要な役割を果たしている。

詳細情報がリンク先のPDF

少し前、ある印刷系のイベントで、数多くのセミナー開催が予定されていることを聞いた。その内容を確認しようとWebサイトを見てみた。しかし、Webページにはセミナーの日時・場所・タイトル・講演者・内容・申込方法などの掲載がなかった。リンク先のPDFを参照せよということであり、そのURLが記載されていた。

そこには、パンフレットとして配布したと推察される冊子のPDFがリンクされており、これを表示すると、何ページ目かにこれらの情報が掲載されていた。

近年は、このようにWeb掲載(つまりHTMLベースでの情報発信)を省略して、PDFだけで済ましてしまう例は少なくなった。しかし、残念ながら、官庁自治体のドキュメントや1部の広報物では、このような例が残っている。

Web上のPDF参照が好ましくない理由

第1に、検索エンジンがPDFの中身を適切に評価せず、検索できないことが挙げられる。現在、多くの情報がWebサイト上で見つけられ、閲覧されている。そのために、ほとんどの人はWebブラウザー上のGoogleやBingなどの検索機能を利用している。

これらは、ロボット型検索エンジンとも呼ばれている。簡単にいうと、世界中のWeb上のページ情報をWebクローラーというロボットが自動で収集し、あらかじめデータベース化しておく。ユーザーが入力した検索キーワードをもとにデータベースに登録されたページをランク付けし、上位ページを表示する仕組みである。その結果、われわれは必要な情報に瞬時にアクセスできるようになっている。

検索エンジンがランク付けする際、Webページの内容に応じて重要度が反映される。例えば、HTMLの見出し項目になっているかどうか、他のサイトからの被リンクが多いかなどである。リンクされたPDFの中身については重視されない傾向があり、検索結果に残らないことが多い。

第2に、PDFはモバイルフレンドリーではないことである。現在、Webを閲覧するデバイスの比率として、スマートフォンは80%に達するといわれている。企業向け・ビジネス向けの内容であれば、PCの比率がやや多くなる。とはいえ、スマートフォンなどのモバイルデバイスが主流であることは確かである。

さて、スマートフォンでPDFを表示するとどうなるか、いうまでもない。ページサイズがA4程度のPDFをスマートフォン上で全体表示しても、ほとんどの文字は読めない。一部分だけを選択し、拡大表示すると、その部分の文字は読めるが、全体はわからない。多くの人は、途中で読むことを断念してしまうだろう。

Webの世界では、レスポンシブWebデザインが定着している。つまり、PC画面とスマートフォンのように、デバイスごとに表示を最適化する技術のことである。デバイスや環境によって表示が左右されないPDFとは、相反する考え方だといえる。

第3に最新情報が反映されにくいことが挙げられる。WebでリンクされたPDFの多くは、チラシやパンフレットとして制作される印刷物を元にしている。印刷物は、一般に企画・制作から校正まで何重にもチェックを行ない、丁寧に作られているため、信頼性が高いとされている。

しかし、印刷物であれば、制作時以降の修正・変更を反映する機会はほとんどない。結果として、リンクされたPDFに最新情報が反映されることは期待できない。

電子ドキュメントとしてのPDF、および印刷データ交換のためのPDFは重要な技術であり、大きな役割を果たしている。
しかし、Webページに印刷用PDFを貼り付けても利用されにくいこと、存在を認めてもらえない可能性があることは、改めて周知されるべきだろう。
(手元のプリンターで印刷するために印刷用PDFをリンクすることは有用である)

(JAGAT 研究・教育部 千葉 弘幸)