炎上する広告を防ぐ

掲載日:2024年9月5日

広告は企業の製品やサービスを消費者に知らせ、購入やその他の行動を促すための重要な手段だ。しかし近年では広告が炎上するケースが増えてきた。ここでいう炎上とは広告が社会的に批判を浴び、大きな議論や非難を引き起こす現象を指す。炎上する広告は、企業にとって大きなリスクとなっている。


炎上広告の事例

2017年、ペプシコーラの広告がアメリカで大きな批判を浴びた。セレブモデルのケンダル・ジェンナーはデモ行進中の男性と目が合った瞬間にペプシ缶をつかみ、そのまま行進に加わる。手にしたペプシを警戒中の警官に渡すと、警官はすぐに口をつけ、笑顔を見せる。デモも和やかなムードに一変し、最後はケンダルが拳を天に突き上げ、歓喜するというストーリーだ。なぜこの広告は炎上したのだろうか。

背景にはBlack Lives Matterがあった。アメリカでは2014年頃から白人警官が黒人を殺害する事件が相次いだ。各地で警官の過剰な治安維持行為を糾弾するデモが拡大し、そのデモにおいても死者が出るほどの激化した対立の中で、ペプシを飲めば丸く収まるという安易なメッセージが国民の大反発を生んだのだ。当初、ペプシコーラは「違う人生を歩む人々が一つになる姿を描いた。」と説明したものの、最終的には広告を撤回し、謝罪した。


炎上の要因

このように広告が炎上する要因は何か。第一には社会的な感受性の高まりがある。消費者は企業のメッセージに対して敏感になっており、倫理的な問題や社会的な公正性を重視している。広告がこれらの価値観に反する場合には、瞬く間に批判が広がる。

第二にSNSの普及が挙げられる。かつては広告に対する不満や批判は限定的な範囲でしか広がらなかったが、現在ではSNSを通じて瞬時に拡散される。ユーザーはリアルタイムで意見を共有し、共感や反感が連鎖的に広がるため、企業にとってはリスクが大きくなっている。

 

炎上を避けるためには

炎上した後に、その理由を特定することは「言うは易く行うは難し」だろう。炎上する前の対策が肝心だ。どのようにして広告の炎上を避けることができるのか。まず文化的、社会的感受性の理解を深めることだ。特に宗教やジェンダー、社会運動に関するテーマには慎重になる必要がある。また広告制作チームに多様なバックグラウンドを持つメンバーを加えることで、さまざまな視点からのフィードバックを得られる。これにより、潜在的なリスクを事前に察知し、回避できる。そして広告を公開する前に、小規模なグループでテストすることも有効だ。それが予期しない問題を早期に発見し、修正することにつながる。

 

炎上後の対策

万が一、広告が炎上してしまった際には、迅速に対応しなければならない。企業の公式声明として謝罪し、問題の広告を即座に撤回することで、被害を最小限に抑えることができる。問題が発生した原因や今後の対策について説明することも重要で、これにより消費者からの信頼を回復しやすくなる。そして炎上を一時的な問題と捉えるのではなく、長期的な改善策を講じることが大切だ。

炎上する広告は企業にとって大きなリスクでありながら、適切に対処すれば大きな学びと成長の機会となる。それが消費者との信頼関係構築につながり、より健全な広告活動が展開できるだろう。とはいえ未然に防ぐことに越したことは無い。

JAGATでは9月24日(火)に広告校正協会・橋口良子氏を講師に迎え、「広告倫理講座~炎上する広告を防げ!~」を開催する。本講座では印刷会社など広告制作に関わる全ての方に、現代の広告倫理、炎上する広告の事例とその背景、炎上を避けるためのポイントについて解説する。社会と顧客に信頼される広告を提供する知識を身につける絶好の機会となるので、是非受講をお勧めしたい。

 

広告倫理講座~炎上する広告を防げ!~ 2024年9月24日(火) 14:00~16:00

 

参考文献
吉野 ヒロ子(2016) 「炎上」現象の展開と現状
市川 孝一(2018)  社会問題化した広告表現
武本 隆行(2019)  炎上する広告 
水村 典弘(2023) 不適切な広告表現の研究 

(研究・教育部 河原 啓太)