2024年10月31日発刊の『印刷白書2024』について、会長網野勝彦よりご挨拶させていただきます。
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2024年度も後半に入り、秋の訪れとともに人々の動きが増え、活気が増してくるはずですが、今年は例年にない酷暑に見舞われました。日常においても“ 地球温暖化” に対する危機を感じざるを得ません。年初に能登半島地震が起こり、その直後に羽田空港で被災地に向かう航空機と旅客機の衝突事故が発生し、社会に大きな衝撃が走りました。被災地の復興が急がれる中、気候変動により激しさを増した豪雨がさらに被害を拡大させ、最も取り組みを優先すべき社会的問題となっています。一日も早い被災地の安全確保と被害に遭われた方々の日常が取り戻されることを願い、私たちは一丸となって被災地を応援し、復興を支援していかなければなりません。印刷業界としても被災地に心を寄せて、それぞれができる支援を考えていきたいと思います。
さて、印刷産業を取り巻く環境は、コロナ禍を境に劇的に変化しました。それまでも、デジタル・ネットワークの技術革新により、印刷物が他のメディアにシフトするなど、長きにわたり年率数パーセントの出荷額減が続き、印刷業界は苦戦を強いられてきました。ところが、パンデミックにより社会経済活動が3 年にわたり停滞し、その後に起こった状況は誰も想像できなかったものでした。印刷需要の“ 減少” というレベルではなく、“ 需要消失” ともいえる過去に経験のない事態となりました。昨年5 月に、政府が新型コロナウイルス感染症を5 類に移行し、徐々に内需は回復傾向になりましたが、印刷需要は元の水準に戻ることなく現在に至っています。
この状況の一つの理解は、今の印刷の全体量が“ 本来の社会全体の必要量” だということです。これまで印刷業界は、過剰な価格競争の中で生き残るべく、必要以上の印刷物を出荷してきた面があります。店頭販促プロモーション用途で出荷されたものの、実際に使われずに廃棄される印刷物は数十パーセントに上るといわれてきました。書籍や雑誌でも同じような問題があります。パンデミックで社会経済活動がリセットされたことで、本来必要である印刷物だけが残り、廃棄や未使用となる“ ムダ” が排除されたのかもしれません。社会が本当に必要としている、“ ムダ” のない印刷物の量に調整されたとも考えられます。これまでの供給過剰から脱出し、印刷物の価値を高める機会だとポジティブに捉えていきたいと思います。
この先、社会は地球温暖化をはじめとする大きな課題に立ち向かっていかなければなりません。その中で、私たち印刷産業はどのようにすれば持続可能な社会に貢献できるのかを考えていくことが、一つの選択肢になると思います。『印刷白書2024』がその考察の一助になることを祈念しております。
2024年10月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 網野勝彦
書籍発刊のお知らせ
『印刷白書2024』2024年10月31日発刊