印刷通販の価格表はわかりやすく印刷物の仕様と納期を選択すればトータル金額が表示される。
例えば、A4サイズ、中綴じ24ページ、用紙はコート90キロ、両面カラー、5000部、7日納期程度の情報があればよい。
一方で、印刷の積算見積りは複雑でわずらわしい。刷版代、印刷代、製本代、用紙代それぞれを計算して、それらを合算してトータルの金額を算出する。例えば、前述のA4サイズ24ページであれば、菊全の印刷機で16頁折りの面付が1丁ついて1台、8頁折りの面付が2丁ついて1台となる。刷版は4C/4Cが2台で菊全のCTPプレートを合計16枚使用する。刷版代は刷版単価×版の枚数となる。
印刷の通し数は、5000通しが1台、2500通しが1台となる(同じ絵柄が2丁付いているので通し数は半分で済む)。 印刷代は色数×通し数×通し単価という計算式となる。ちなみに 4色機で単色の印刷をすると売上は4分の1になるが、作業時間はあまり変わらない。不合理であるが、単色印刷機で4色刷り重ねる(4回印刷する)ことでカラー印刷していたときの名残りと理解している。
用紙の枚数は仕上がりサイズ(A4)ではなく、全紙サイズ(菊全ないしA全)で計算する。A4サイズ24ページであれば1冊つくるのに全紙で1.5枚使うので、5000部だと7500枚(7.5連)必要となる。一般紙の場合、用紙の単価は枚単価ではなくキロ単価となる。ちなみに90キロというのは四六判サイズの用紙が1000枚のときの重さで、これを連量という。
1キロ200円だとして1枚単価に換算すると、200円×90キロ÷1000枚で18円/枚となる。用紙代は、18円×7500枚という計算式で13万5千円となる。印刷や製本工程では予備紙を必要とするので、その分を正味枚数に加算することになるし、用紙枚数に端数が出た場合は包装単位で切り上げることになる。普段から積算見積りをする人にとっては、基本のキであるが、これだけでも積算見積りのわずらわしさは理解いただけるだろう。
このように印刷の積算見積りが難しくなるのは、仕様設計ととともに製造(工程)設計が必要となるからだ。見積りが採択されて、受注伝票や作業指示書の起票においても、印刷物の仕様だけでなく製造工程の入力が求められる。何を作るかだけでなくどうやって作るかまで営業が決めることになる(工場の都合で後に変更されることもあるが)。これが印刷営業が1人前になるまでに時間がかかる理由のひとつであり、営業活動から会社に戻ってきてからの事務処理時間が長くなる一因でもある。
小ロット化が進み、受注単価が低くなっても伝票の作成時間はさほど短くならないかわりに件数が増えて伝票枚数が増加するので、かえって事務処理コストがかさむことになる。小ロット化への対応というとオフセット印刷機からデジタル印刷機へという製造手段の置き換えの議論が中心になるが、事務処理の負担がボトルネックとなる可能性もある。生産性を阻害するところまでいかないにしても売上が2~3万円の伝票処理に1時間以上もかかるようでは採算は合わないだろう。
印刷機をデジタルに置き換えるのであれば、この煩雑な営業事務を劇的に効率化させることを考えたい。トナー機で印刷サイズがA3に限定されるのであれば、頁折りや台という概念が不要となり、丁合作業もなくなる。見積りは積算ではなく1冊ないし1枚いくらというシンプルな形式にしたい。また、製造工程はある程度パターン化して、営業は印刷物の仕様を入力するだけで済むようにしたい。仕様が決まれば、おのずと製造工程も決まり、デジタルなので工数も読め、日程計画が自動化あるいは計画不要になる。工務や生産管理の業務も大幅に軽減されるはずだ。複雑な原価管理も不要となるだろう。デジタル印刷に特化してとにかく入力作業を簡素化するMISが欲しくなる。
ひとつ懸念されるのは、デジタル印刷機が大型化していったときにどうなるかであるが、営業が頁折りや台数を気にすることはないようにしたいものだ(製造設計の煩わしさからは解放したい)。
(研究・教育部 花房 賢)