改善と科学的なアプローチ
印刷工場におけるムリ、ムダ、ムラの3Mを削減することは重要な課題だ。特に中小の印刷業では、多品種少量に加え、仕様の異なる受注生産の多い製造部門においては管理が難しく、現場では経験や勘による職人気質で活動してきた事案が見受けられ、生産性向上に向けた改善活動が進まないケースがある。改善活動が上手くいかないケースでは、推進するリーダーや改善マインドが重要不可欠で、納得感のある合理的で科学的な対応策も必要だ。ロサンゼルスドジャーズの大谷選手は、データ分析にも積極的にも積極的で科学的だ。自分の打撃データを分析して弱点を補強し、強みをさらに伸ばしているという。日刊スポーツ(2024年6月20号)によれば、新ルーティンでは、打席でのバット置きで立ち位置を確認していることで、導入後5戦で打率4割5分の記事が掲載された。同チームのベイツ打撃コーチによれば「彼は打席で同じ位置に立ちたいと思っている。相手投手によって変えることもあるが、安定して立てるように」と、左足をセットする明確な意図があるという。こうした姿勢が、彼の打撃力をさらに高め、ホームランを量産する結果に繋がったとされる。
科学的な改善とIE活動
これらは、仕事における改善活動にも大いに共通する。科学的な改善活動では、IE活動がある。トヨタ生産方式のベースになったともいわれ、改善活動のルーツのようなものだ。IE(Industrial Engineering)は、一般的に生産工学や経営工学とされ、JISでは経営工学とされている。ものづくりの改善は経済的な側面が大きく、企業の経営を左右する。世界におけるものづくりは、18世紀後半~19世紀前半にかけてイギリスで起こった産業革命によって大きく変わった。職人による家内労働から工場における組織的生産活動に変化したことにより、効率的な生産に向けた体制づくりが必要になった背景がある。1900年初期に、アメリカの技術者兼経営学者“フレデリック・テーラー”によって提唱された手法で、日本インダストリアル・エンジニアリング協会(日本IE協会)によれば、IEは、価値とムダを顕在化させ、資源を最小化することでその価値を最大限に引き出そうとする見方・考え方であり、それを実現する技術。仕事のやり方や時間の使い方を工夫して豊かで実りある社会を築くことを狙いとしており、製造業だけでなくサービス産業や農業、公共団体や家庭生活の中でも活用されているとある。
IEは、論理的な分析によって生産性を向上する手法だ。工程や作業の方法、作業にかかる時間などを科学的な手法に基づき細かく分析することで、ムリ・ムダ・ムラのない最適な方法を導く。基本的な考え方は、生産活動における作業を「価値のあるもの」と「価値のないムダなもの」に分けることだ。これらを「見える化」し、ムダを排除する。
効率=「得られた結果」÷「労力」で表し、
労力におけるムダを減らすことで労力の比率が下がり、生産効率が高まる。ポイントは、IEではムダは全部排除できないとされる。「必要なムダ」があるというのだ。
例えば、印刷機の3つの作業動作では、
- 紙を積み、インキ、版をセット=「価値を生まない」
- 刷り出し調整=「価値を生まない」
- 印刷=「価値を生む」
段取り替えにあたる①と②は価値を生まないムダに分類される。ところが、このムダに分類された動作がなければ印刷はできない。「必要なムダ」ということだ。ムダを不必要なムダは排除し、必要なムダを工夫することで効率化していくことが肝になる。
IE活動の実践では、論理的な様々な分析手法を使い、大きく2種に分類される。 「方法研究」 と 「作業測定」 である。方法研究では、工程・作業方法・手順を分析して改善を行い、作業測定では、作業に必要な時間を測定・分析して、ムダな時間をなくす。これら2つの分類において様々な具体的な手法がある。例えば、代表的なものにフランク・バンカー・ギルブレスが提唱した「サーブリッグ分析」は、方法研究である動作研究の基礎となる。「人が行う作業は、18種類の基本的な要素動作からなる」と提唱し、その要素動作をサーブリッグと名付けた。3つの有用度、第1類・第2類・第3類に層別し、サーブリッグ分析表により「見える化」することで改善案を検討する手法で微細動作分析(サーブリッグ分析)と呼ばれる。2025年6月4日開講予定の第5期印刷工場長養成講座(全6回)では、新講座として、生産性向上のためのマネジメント「IE活動のすすめ方」を取り入れる。多くの工場で、人材不足や働き方改革への対応が必要な今日では、社員の納得感のある合理的な課題解決策は益々重要になる。
(研究教育部 古谷芸文)
【オンライン】 第5期 印刷工場長養成講座 2025年6月開講
【オンライン】第3期 印刷機長養成講座 2025年8月開講