『厚利少売』という考え方

掲載日:2024年11月28日

人口減少の時代に入り、成長期から成熟期に入った日本では、薄利多売モデルの見直しが印刷業界のみならずあらゆる業種で求められている。

知人からの紹介で『厚利少売』(菅原健一著)という書籍を読んだ。ビジネスモデルの転換を考える上でとても参考になったので紹介したい。
同書では、まず薄利多売の思考になっているかどうかをチェックする12の設問からスタートする。

・価格を下げて競合他社に勝とうとしている。
・利益よりも、まずは売上を優先しがちだ。
・自分の製品はどんな人にも買ってほしい
・売っても売ってもまた仕入れたり広告を出したりで、利益が残らない
・「お客さんの数は多ければ多いほどいい」と考えている
・お客さんに感謝されることが少ない
・製品やサービスを幅広く提供していて特定のターゲットに特化していない
・大量の在庫を抱え、在庫管理に頭を悩ませている
・いろいろな企業と価格競争をしている
・どんな人にも買ってほしいから、当たり障りない製品を作っている
・常に新しい顧客を獲得しようとしている
・集客を広告に依存している

一般的な印刷会社であれば、3つ4つは該当するのではないだろうか?

厚利少売の実現ステップは次のようになる。

1.「価格をあげる」
2.「お客さんを減らす」
3.「高い価値を提供する」

いきなり「価格をあげる」のは、かなり勇気がいることではあるが、それは提供する価値に責任を持つことの裏返しであると理解した。
では、高い価値の「価値」とは何か?
著者は価値とは「相手の変化量」であるという。

ここでいう「変化量」とは、
・利益が2倍になった
・採用応募者が100人増えた
・昨対比で集客が50%増加した
  など定量的な変化だけでなく

・社員や顧客との関係が良くなった
・家族の笑顔が増えた
・自社の強みを言語化できた
  など定性的な変化も含む

相手に「変化量」を感じてもらうには、提供するものに徹底的にシビアになるとともに、「変化を見届けるまでコミットする」という覚悟が必要になるという。

印刷業では、まだまだ納品するまでが仕事という感覚が強く、その印刷物を活用することでお客様にどのような「変化」が生まれたか? まで関心を持つことは少ないし、ましてやその結果までコミットするという意識は薄いだろう。逆に言うと、結果にコミットできれば「高く売れる」ことになる。厚利少売のビジネスでは、価格は原価から逆算したり、同業他社との比較で決めてはならないという。そして、「過去の経験」や「業界の常識」が邪魔をすると述べられており考えさせられる。

厚利少売をするには以下の「4つの基本原則」がある。
1.提供する価値に責任をもつ
2.供給量をしぼる
3.「売上脳」ではなく「利益脳」
4.異常値になる

「異常値になる」というのはわかりづらいので、本から部分的に抜粋する。

「あなた(御社)の代わりはほかにいない」と言われる存在になるためには、その相手にとっての異常値にならなければならない。
全員にいい顔はできないし、する必要はないが、自分(や提供する製品やサービス)を好きになってくれる人がいたら、その人には最善を尽くすし、もっと好きになってもらわなければならない。このような異常値としての覚悟・プライドが、厚利少売には必須である。

経験や実績がないのに「結果のコミットができるのか?」については、「背伸び」をしてやってみるしかないと説く。「背伸び」とはムリをすることではなく、「現状の自分に満足せず、新しい挑戦をする姿勢」であり、ビジネスを続けるうででは欠かせない行為。背伸びをすることは、新たな価値を生む一歩であるという。

ちなみに著者の経営アドバイザーの仕事は、時給30万円であるそうだ。
価格が高いというお客様には以下のように答えるという。

なるほどわかりました。
1時間30万円の月4回で120万円、年間だと1440万円が「高い」と思ってしまうような小さいプロジェクトをご一緒するなら、僕である必要はないと思います。僕は企業の10倍成長を支援するのが仕事で、いただいた対価以上の結果を出すために徹底的にコミットしています。
もし年間1440万円以上の利益アップを期待されていないようでしたら、申し訳ありませんが、こちらからお断りさせていただきます。

そして、お客様は選ぶ必要があり、その条件が以下となる。
①本気で変わりたいと思っている
②こちらのアドバイスどおりに行動してくれる
③異常値でも受け入れてくれる
④数少ない供給を与えてあげたいと思える

いずれにせよ、お客様の「変化量」にコミットするという姿勢はあらゆるビジネスにより求められるようになるだろう。
今後のJAGAT自身の事業においても強く意識していきたい。

(研究・教育部 花房 賢)