ソーシャルメディアからのトラフィックの減少や、動画主体のプラットフォームへのシフト、AIによるコンテンツ作成などの環境変化の中で、ニュースと消費者の関係も変化していくのか。(数字で読み解く印刷産業2024その9)
プラットフォームの変化がニュースに与える影響
ロイタージャーナリズム研究所「ロイター・デジタルニュースリポート2024」によると、多くの国や地域で、ニュースメディアはコスト増、広告収入減、さらにソーシャルメディアからのトラフィックの急減により困難な状況にあります。
その要因の一つとして「プラットフォーム・リセット」が挙げられています。FacebookやX(旧Twitter)は、ニュースや政治的コンテンツの扱いを縮小し、動画や自社フォーマットによる投稿などを優先的に表示するように変化しています。ニュースサイトなどに流入するトラフィックは、過去1年でFacebookから48%、Xから27%減少したというデータもあります。
また、YouTubeやTikTokのような動画主体のプラットフォームへのシフトが若年層を中心に進み、全体の66%がニュースのショート動画にアクセスし、長尺動画も51%が視聴しています。
ニュースへの入り口は検索+アグリゲーター
ニュースの入手経路は、ソーシャルメディア29%、検索25%、Webサイトやアプリへのダイレクトアクセス22%、アグリゲーター(各社の記事をまとめて表示するWebサイトやアプリ)8%です。ソーシャルメディアは若年層で利用され、検索はすべての年齢層で一貫して利用されています。
この傾向は国による違いも大きく、調査対象の47カ国・地域のうち、フィンランド・ノルウェー・デンマーク・スウェーデンではダイレクトが50%を超えているのに対して、タイ・ケニア・フィリピン・チリではソーシャルメディアが主流です。一方、日本では検索+アグリゲーターの利用が70% 、ダイレクトは9% 、ソーシャルメディアは8%で、韓国も似たような傾向にあります。
オンラインニュースの何が事実で何がフェイクなのかという不安は、過去1年で3ポイント上昇し、59%となりました。誤情報や陰謀論のほか、ディープフェイク画像や動画の拡散の舞台となったTikTokとXでの見極めが、特に難しいとされています。
また、ジャーナリズムにおけるAIの使用法では、十分な監督なしにAIで作成されたコンテンツについて不安という回答が大部分を占めました。これに対して、文字起こしや翻訳などのジャーナリストの仕事を補助する目的での使用は容認されています。
ニュースへの信頼度は安定しているか
2024年の報告書は、世界中で重要な選挙が行われ、ウクライナとガザで戦闘が続く中で発表されたことから、「この騒然とした世の中で、正確で独立したジャーナリズムの重要性はかつてないほど高まっているが、その一方で調査対象の国や地域の多くでは、ニュースメディアが誤情報・偽情報の増加や信頼の低下、政治家からの攻撃、不確実なビジネス環境といった問題にますます悩まされている」と分析しています。
ニュースへの信頼度は、調査全体で40%と横ばいで安定しています。フィンランドが69%と最も高く、ギリシャとハンガリーが23%で最も低く、日本は43%で平均をわずかに上回っています。
日本での信頼度は横ばいで推移していますが、個々のニュースブランドのスコアは2~6ポイント低下しています。ジャニー喜多川の性加害問題をなぜ大手メディアが長年放置してきたのか、日本以外のメディアであるBBCの調査によって公になったことも指摘されています。
ニュースは自然に目に入るもの
「ニュースを得るために利用する媒体」(複数回答)は、日本では2014年からの10年間で、「新聞・雑誌」は60%→21%、「テレビ」は80%→53%へと大幅に減少しました。この減少分をオンラインやソーシャルメディアが補っているかというと、「オンライン(ソーシャルメディア含む)」は増減を繰り返しながら10年間で5ポイント減で、「ソーシャルメディア」は16%→23%の増加にとどまっています。
一方、「いずれでもない」は4%→16%と4倍になっています。調査全体の平均は6%で、2桁に達しているのは、アメリカ11%、イギリス10%、アルゼンチン10%と、政治や社会の対立が表面化している国ばかりです。媒体を利用しなかった理由をアメリカ、イギリス、ドイツなど6カ国に尋ねたところ、「ニュースは自然に目に入る」という回答が、日本は41%と突出していました(6カ国平均26%)。
日本では多くの消費者が無料のニュースを利用しています。そのため、オンラインニュースの定期購読は、対象となった20カ国の平均は17%ですが、日本は9%で、イギリスの8%に次いで低くなっています。
10月末発刊の『印刷白書2024』では、 「新聞ならではの信頼性を確保しつつ進むデジタルシフト」において、新聞の存在意義やジャーナリズムについて考察しています。
限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。
(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)