持続可能な社会の形成に向けて、資源を一方向に利用する線形経済から、循環利用により新たな付加価値を生む経済への変化が世界共通の課題となっている。
取り組みが先行するEU では、原料調達から製造、使用に至る一連のプロセスにおける環境影響情報を開示させる仕組みの導入をはじめ、廃棄に関する規制、循環型経済を前提とした企業活動のサステナビリティを評価する金融の仕組みといった法整備が進められている。製造・使用・再利用という製品のライフサイクルに適切な導線を設定することにより、資源循環の最適化に向けた動きを促進している。
循環経済に向けたエコデザイン規則
製品ライフサイクルの各段階における情報開示を義務付ける規制として、EU で2024 年に発効したエコデザイン(環境配慮設計)規則がある。2009 年に「指令」として施行された後、より強制力の高い「規則」に格上げされたものだ。
なかでも注目されているのが、デジタル製品パスポートによる環境影響情報のトレーサビリティの担保である。すなわち、原料の調達から製品の使用に至るまでの資源循環やエネルギー消費など持続可能性に関する情報をデジタルデータで記録する。これにより、従来把握することが困難であった製品使用段階における環境への影響についても情報登録が義務付けられることになる。
適量生産・適量消費
生産者側の環境対応は、製造工程での環境負荷の低減から取り組みが始まった。だが、循環型経済に向けた適量生産には、製造方法による技術的解決にとどまらない対処法が求められる。
例えばエコデザイン規則では、売れ残り衣料品の廃棄禁止が盛り込まれた。その背景には、原材料の使用量が多く環境負荷が高い産業であるアパレル業界での環境対応の変遷がある。アパレル製品の材料となるテキスタイルの絵柄表現については、従来のアナログ捺染方式では大規模な水質汚染をはじめとして環境への負荷が高かった。だが、デジタル捺染方式が開発されて以降、後工程が不要となるなど環境負荷は大幅に低下した。
一方でアパレルの商品戦略として、ファストファッション系に見られるように多品種小ロット展開が進んだ。そのため、デジタル捺染による多様な絵柄やデザインの商品を市場に少量ずつ投入し、実際の売れ行きからトレンドを推測して絶えず次の商品を投入していくという手法が広がった。小ロットで手軽に生産できるため、消費者ニーズを取りこぼすことのない商品提供が可能となり、短期的戦略としてはメリットが多かった。
しかし、この手法は売れない(必要のない)製品の大量廃棄にもつながり、廃棄に伴う環境負荷が取り沙汰されるようになった。これらの反省から、フランスでは2022年より売れ残りアパレル製品の廃棄が禁止されている。
現在では、より精密に需要を予測するための情報技術の活用や、市場に出た製品を売り切る販売手法、衣類のオンデマンド生産を可能にするECサイトの展開など、必要量に応じて環境負荷の少ない手法で製造し、適切な価値を付加して生活者の手元へ届ける方向性が求められている。
情報メディアにおけるCO2効率とビジネスゴール
こうした環境配慮設計は、情報メディアにも求められている。ドイツの流通小売業向けコンサルティング会社であるEHI Retail Instituteでは、CO2効率の高いマーケティングとメディアプランニングを目的に、12種類のマーケティングチャネルにおけるCO2排出の分析を行った。デジタル広告では、販促ターゲットと掲載媒体の親和性を重視した配信設計や、同一受信者への配信頻度の調整、低頻度の配信でも高い確度で効果につながるような広告コンテンツが推奨される傾向にある。
印刷メディアにおいても、今後は環境配慮設計という観点から少部数で高い効果を発揮する印刷物を提供するメディアプランニングが望まれる可能性がある。
(JAGAT 丹羽朋子) Jagat Info 2024年12月号より加筆修正