印刷業界では今、顧客の多様なニーズに応えられる新商品・新サービスの開発が求められている。企業の事業特性や強みを多方向から検証することで、新しいビジネスの糸口が見えてくるのではないだろうか。
JAGATが主催する「印刷ビジネス開発実践講座(全7回)」では、講師がノウハウを座学で解説するだけではなく、実際に自社の案件を素材として、講師と受講者が一緒に新商品・新サービスの方向性を考えるグループコンサルティングのスタイルをとっている。
昨年本講座に参加してその開発メソッドを体験し、終了後、実際に新規の印刷通販サービスの立ち上げを準備中の協友印刷(東京都新宿区)の専務取締役の菊地登志雄氏と常務取締役の菊地貴之氏から、新事業に向けた取り組みの過程を伺った。
創業47年になる協友印刷は、2011年に同人誌に特化した印刷通販サイト「きょうゆう出版」を開設したことをきっかけに、冊子印刷通販事業を本格的に稼働させた。2015年には「相談できる冊子印刷の協友(キョウユウ)」がスタートし、顧客のリクエストに細やかに対応することで、売り上げを順調に伸ばしている。現在は「印刷ビジネス開発実践講座」で構築した新サービスのコンセプトをもとに、新たに「お任せできる冊子印刷の協友」を準備中である。
■自社の強みを活かした冊子印刷通販の成功
――「相談できる冊子印刷通販サイト」が好調ですが、新事業として立ち上げた経緯をお聞かせください。
専務「リーマンショック以降、当社も売り上げが減少し、新事業を作らないと先行き立ち行かなくなるという不安がありました。 新たなチャレンジとして、印刷通販をやってみようということになり、自社の既存の設備で作れるものはないかと考えた末に、取り組んだのが冊子でした。まず同人誌に注目して、2011年の秋に同人誌事業のサイト「きょうゆう出版」を立ち上げました。ニッチな市場を相手にノウハウを高めながら、冊子印刷全般に展開していきたいと考えました。」
常務「同人誌事業がある程度軌道に乗ってきたので、2014年の夏に、「冊子印刷通販の協友」という名前で印刷通販サイトを始めたものの、スタートした当初はさほど反応がなくて、半年くらい伸び悩みました。今後どうするかと思案していた時に、参加していたJAGATのコンサルティング型のセミナーで「相談できる冊子印刷」というコンセプトを発見し、2015年からサイト名に「相談できる」を入れてみたところ、一気に売り上げが伸びました。経験豊富な相談専門員や実際の相談事例のコンテンツ、完成本サンプルの無料提供などのサービスが好評で、冊子に特化した他の通販サイトでは、こうした顧客のニーズに個別に対応しているところがなかったので、珍しかったのだと思います。」
専務「当社はもともとイレギュラーの仕事が多く、そうした様々な相談事にも抵抗なく対応できるという風土がありました。「相談できる冊子印刷」では、長年やってきた得意な部分を強みとして生かすことが出来たと思います。」
■「相談できる」から「お任せできる」へ
――「相談できる」通販サイトがコアな商材として成長したわけですが、あらためて新ビジネス開発をテーマとする本講座に参加された理由をお聞かせください。
常務「「相談できる冊子印刷の協友」は、顧客の要望に応じて注文内容をカスタマイズできるという強みによって、これまで順調に成長してきました。しかし成長にもサイクルがありますから、今のうちに新たに次の成長の柱となる事業を作らなければという思いがありました。」
――「他社にない強みを発見する」というメソッドがこの講座の特徴ですが、取り組まれていかがでしたか?
専務「独自のマーケティングツールやワークを通して、自社の強みや弱みをきちんと整理することができたことが、仮説を組み立てる上で役立ちました。様々な可能性を洗い出し、この部分は競合が多いからやめておこうとか、今後成長が見込めるかなどの検証ができたのが良かったですね。」
常務「実は最初にたてた仮説が2回めくらいで、リスクが大きいのでやめたほうがいいという結論になって、途中でゼロからスタートを切らなければならなくなったんです。」
専務「講師の方から、正しい道筋を立てていただいたのはありがたかった。他の参加者も同業者の方ばかりなので、最初からお互いに精度の高い相談ができるというのは、この研修の強みだったと思います。」
――途中での再スタートは大変だったと思いますが、その後どのように、新しいコンセプトが生まれたのでしょうか?
常務「もう一度、冊子印刷に立ち戻って、コアの商材である「相談できる」のサイトを掘り下げ始めたんです。今のサイトでお客様が困っていることはないかを考えるところから始めた。
新しいジャンルに手を出すのはリスクが高いけれど、いつも自分たちがやっていることを検証しながら、別のアプローチを見つけるという方法もあるということに気がつきました。掘り下げた結果、細かくカスタマイズできることが強みである「相談できる」に対して、逆に発注に慣れていない、相談が苦手な人向けにパッケージ化した「お任せできる」冊子通販サイトのアイデアが生まれたんです。」
――既存のサイトで対応できていない部分を解決するという方向から、見つめ直したわけですね。「お任せできる」のサイトは、全7回の講座のプロセスを通して具体化され、今年度中には立ち上げを予定されているそうですね。
専務「現在準備を進めていますが、今後「お任せできる」を育てていって、そちらを伸ばしながら「相談できる」との相乗効果が生まれればいいと思っています。」
■会社全体でプロジェクトを共有する意識を育む
――新しいプロジェクトのスタートに際しては、社内でどのように共有されているのでしょうか。
専務「新規事業が決定した段階で、最初に社員を集めて、プロジェクトの目的や内容を説明しています。全員が分かっていないと、どこかでズレが生じますから。」
常務「会社全体が理解できないものは、お客様にも理解を得られないのではないかと思います。お客様は発注者の視点で、この印刷会社が何が得意かを理解した上で依頼してきている。お客様が理解していることを印刷会社が把握していないとうまく発信できない。そのギャップを無くす必要があると思います。」
――社内の雰囲気に変化はありましたか?
常務「チャレンジに対して結果が出ているということもありますが、新しいことに対して受け入れてくれる土壌ができているという感触がある。社員には伝える、きちんと説明をするということが大事だと思います。」
専務「新しいことに取り組んでいるという現状を見せることによって、社員に安心感というか、この会社にいてもいいんだなという希望をもってもらえるのではないかと思います。最近は自主的に動いてもらえるように、責任者を決めて、運営も任せるようにしている。」
常務「私たちがこの講座で学んだことを社内で共有しながら、社員一人ひとりが今度は自分たちで、新しいことを育てていけるように、うまく社内が回っていければいいと考えています。」
――ありがとうございました。
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