従来、サステナビリティ課題への対応は、企業の社会貢献でありコストであると思われてきたが、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、経済活動のルールが変わりつつある。ファイナンスの面から紹介する。
かつてない猛暑や豪雨など気候変動を実感することが増えている。2021年に「地球温暖化を確実に予測する気候モデルの開発」を唱えた真鍋淑郎氏がのノーベル物理学賞を受賞するなど、人類の活動により排出されるCO2などの温室効果ガスが温暖化に影響していることは間違いないだろう。
2016年に発効したパリ協定では、世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2℃高い水準を十分に下回るレベルに抑えることならびに産業革命以前より1.5℃高い水準のものに制限するための努力を継続することが決められた。それを受けて、パリ協定の締約各国は、2050年のカーボンニュートラルと2030年の削減目標を表明している。日本では、2050年のカーボンニュートラルに向けて、2030年のCO2排出量を2013年度比▲46%とするという目標を表明している。
こうした国際的な枠組みは定められているものの、環境対応の取組みが企業や市民の善意とボランティアに委ねられているだけでは実現はおぼつかないだろう。
そこで、資金調達という側面から企業の環境対応を促進させようという取組みがサステナブルファイナンスである。国連は2006年に機関投資家に向けて投資の意思決定に環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の問題を組み込むことを呼びかける「国連責任投資原則(PRI)」を策定している。「ESG」という言葉が広まるきっかけにもなった。
日本においては、世界最大の年金運用機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年にPRIに署名している。また、環境省、経済産業省、金融庁から金利や税制の優遇、補助金などさまざまな施策が打ち出されている。日本銀行は、金融機関に対して気候変動対応投融資を支援するために貸付利率が0%の資金供給制度(気候変動対応オペ)を立ち上げている。
そして、投融資を受ける企業側には、サステナビリティ情報を開示することが求められ、上場企業(東証プライム)は有価証券報告書のなかでサステナビリティ情報を開示することが事実上義務化されている(遵守義務はないが遵守しない場合はその理由を説明しなければならない)。
一方で、環境に配慮しているように見せかけて、実際には環境に配慮していない企業の活動や製品を指す「グリーンウォッシュ」という言葉があるように、企業のサステナビリティ、特に環境対応の取組みを客観的、定量的に評価する第三者機関が求められ、近年、急速に存在感を増している。page2025カンファレンス「ビジネスに直結するサステナビリティ」で登壇いただく(株)アスエネもこうした評価会社の1社である。
ここまでの話しを読んでも中小企業には関係がないと思われる方も多いように思うが、国際的に社会経済のルール・枠組みが大きく変わりつつある。
上場企業のような大企業に対してのサステナビリティ対応のプレッシャーは、いずれサプライチェーン全体に及ぶであろうし、地域金融機関もESGを考慮した事業性評価をもとに融資の条件を決定していくような流れになっている。リスクマネジメントの意味でも、その動向を理解しておく必要があるだろう。
(研究・教育部 花房 賢)
関連カンファレンス:
2025年2月12日 15時30分-17時30分
「ビジネスに直結するサステナビリティ」