サステナビリティ評価会社の台頭に象徴されるように、ビジネスとしてのサステナビリティを巡る姿勢はますます重要になっている。今後は日本でも、環境対応が取引先選定の優先事項となるだろう。旧来の認識を改め、印刷会社は低マイグレーションや脱墨への対応、印刷機のCO2排出量表示などに取り組みたい。
サステナビリティを巡る2つのギャップ
環境対応に関する日本の印刷会社の認識は「企業イメージにとっては重要だが、ビジネスとして考えると何をしたらよいかわからない。費用をかけてまで取り組む必要があるのか」というものではないか。
しかし、この認識は誤りで、この問題を巡っては2つの大きなギャップがある。欧米と日本の間に、そして日本の中でも発注者と印刷会社の間に、認識 のギャップが存在し、前者の認識は後者よりも鋭く、サステナビリティに対する姿勢もしかりである。
2024 年1月、武田薬品が日本国内で製造される自社製品の二次包装印刷について、特色インキからCMYKインキへの切り替えを発表した。インキの使用量と廃棄量、印刷機の洗浄に使用する溶剤の使用量と廃棄量を削減することで、環境負荷低減を促進する狙いである。将来的には、デジタル印刷の採用も見据えて検討を進めていくという。いまや世界的に、サステナビリティに 関する企業の姿勢がビジネスに直結するのだ。
サステナビリティの3つの柱
サステナビリティには3つの大きな柱がある。社会開発、経済成長、環境保護である。
「社会開発」の視点では、すべての人々の基本的なニーズが満たされる公平な社会を構築することを目指し、教育・医療・福祉・労働条件・人権などが重要な要素となる。「経済成長」の視点では、経済成長 を維持しつつ資源を有効利用し、長期的な経済的繁栄を目指す。そして「環境保護」の視点では、資源の過剰消費の抑制、再生可能エネルギーの利用、廃棄物の削減、リサイクルの最大化、生物多様性の保全や自然環境保護などを目指す。
それらのうち、印刷業界に関連する環境保護のキーワードとして、①使用成分への配慮(低マイグレーション)、②廃棄物の減少(ヤレの最小化)、③リサイクル(脱墨を意識した印刷方式の採用)などがある。
事業活動全体のCO2排出量を考える
今後、発注者であるブランドオーナーが印刷工程のサステナビリティ対策を強く求めてくることが予測される。その背景には、EcoVadis社などのサステナビリティ評価会社の台頭がある。
評価会社では、原材料調達・部品の製造、顧客の製品利用・廃棄、輸送、従業員の通勤・出張、投資先の企業活動などにより排出されるCO2などの温室効果ガス(GHG)の量を算出している。自社の企業活動の範囲(Scope1、Scope2)だけでなく、サプライチェーン全体(Scope3)での排出量により評価される。それゆえ印刷会社には、印刷物の製造にかかるCO2排出量の算出、提示が求められるだろう。例えば食品メーカーであれば、ペットボトル飲料の中身だけでなくラベルなどの印刷物の製造をも含めた、トータルのCO2排出量が評価されるからだ。