サステナビリティを巡る ステークホルダーの全体像

掲載日:2025年1月20日

産業界でのサステナビリティの実現には、さまざまな立場からのアプローチが互いに関連しており、ステークホルダーの全体像を捉えて理解を深める必要がある。ここでは世界各国の動向を基に、主体(アクター)間に働く作用について考えてみたい。

国家や国際機関による促進

EU では欧州委員会の政策イニシアチブである「欧州グリーンディール」により、気候中立を目標として国境炭素税、排出量取引システムなどの従来発生していた外部不経済を内部化する取り組みのほか、森林破壊の防止や、持続可能な農業戦略などを推進している。

例えば2024 年に発効した製造に関する情報トレーサビリティを義務付けるエコデザイン規則は、法規制によって生産段階における拡大生産者責任を問う形で企業活動の適正化を促している。また、ドイツをはじめヨーロッパ各国で法制化が進むデューデリジェンス法は、一定規模以上の企業に関するサプライチェーン全体に対して環境汚染の回避や労働者の人権保護などを義務付けており、産業間の取引関係を社会の共通善につなげる作用をもたらしている。

ESG 投資市場で働く力学

国連が提唱する責任投資原則(PRI)は、機関投資家のスチュワードシップコード(投資を通じて企業の持続的成長を促す行動指針)に大きく作用する。サステナビリティ情報開示は世界のデファクトスタンダードになりつつあり、2022 年の統計では、世界全体の投資額に占めるESG 投資の割合は35.9%となっている。EU では「企業サステナビリティ報告指令」により非財務情報の開示を義務付ける企業の対象範囲を2024 年よりさらに広げ、ESG投資をより促進する方針である。

生活者を中心とした力学

投資市場における資金調達面での作用は直接的で、大きな促進力となっている。サステナビリティの追求では、供給側である企業の生産活動の変革だけでなく、需要側である生活者の消費活動の変容も大きく影響を与えている。電通総研とグローバルビジネスセンターが世界各国の一般生活者に対して2010 年より実施している「サステナブル・ライフスタイル意識調査レポート2023」によると、「サステナビリティを推進していく責任を担うべき主体はどこか」に対する回答として、「国・政府」と答えた人の割合が各国とも50%以上となっている。一方で、企業への期待について取り組みが先行しているフランス・ドイツでは、グローバル企業への期待がそれぞれ53.0%・61.0%と比較的高い。隣国と地続きのEU では、グローバル企業の活動への期待が大きいのもうなずける。

これらの生活者の動向に影響を与える要因としては、国際機関や国家、あるいはNPO の活動による教育啓蒙活動、民間メディアによる情報提示などが挙げられる。また、サステナビリティに関する認識をどのように消費行動に結び付けるかという点においては、イギリスをはじめヨーロッパ各国では民間機関による商品・サービスの評価サイトが存在しており、生活者の購買意思の決定に一役買っている。

日本のあるNPO 法人では、生活者の視点から企業活動のサステナビリティ評価を実施し、その結果を「企業通信簿」として公表している。中立的な立場から情報提供を行うことによって消費行動の変容を促し、さらには企業活動の変化という作用をもたらそうと試みている事例である。

(JAGAT 丹羽 朋子)