世界包装機構(WPO)では2024 年5月14日、市場調査会社Smithers のアダム・ペイジ氏を招いて包装のグローバルトレンドに関するウェビナーを行った。
主な講演内容は、包装市場の概況や消費トレンドをはじめ持続可能性、e コマース、サプライチェーンの混乱、技術革新などを解説するとともに、今後の展望を語るものであった。以下では、講演の中から印刷に関連するトピックを挙げてみたい。
人口増加の影響を受ける包装市場
現在、世界の包装市場は1 兆ドルを超えている。2000年以降の動きで見ると、2008 年のリーマンショックによる落ち込みはあったものの、2020 年のコロナ禍により生活者が日常の消費に安全性を求めたことから配送包材を中心に市場が拡大し、大きな成長につながった。その後も信頼性と回復力のある市場であるとの期待が高まり、投資が集中している。
また、包装市場は人口規模の拡大に大きく影響される市場である。人口増加中のアジアで中間層が台頭す ることにより、市場の伸長が見られる。特に中国とインドにおいて可処分所得が上昇していることから、より洗練されたパッケージの需要が増加している。
市場最大の課題は「持続可能性」
持続可能な社会にとって商品包装の影響は大きく、ブランドオーナーや小売業者はチャレンジングな目標を掲げている。ヨーロッパやアジアでは生産者責任の拡大が大きな潮流となっており、包装材料やデザインの選択、資金調達やリサイクルのためのインフラ整備にまで影響を及ぼしている。さらに、2024 年3 月に暫定合意したEU の包装・包装廃棄物規則案(PPWR)は、EU だけでなく全世界の包装および消費財産業に衝撃を与えつつある。
ウェビナー参加者からは、各種包装のリサイクル率について統計データの必要性が提起された。これに対してWPO 会長のルシアナ・ペレグリノ氏は、「産業界共通の課題であり、民間と公共の双方で対処すべき問題と認識している。リサイクルのインフラ整備とともに対処すべき問題であり、公共部門からの投資が必須となっている」と述べた。
さらに、ブランドオーナーのリサイクル方針に対する第三者チェックについて質問が行われた。ペイジ氏は、「現時点ではブランド自身が自社情報を公開しているのみである。ヨーロッパではグリーンウォッシングを規制する法律(グリーンクレーム法)も施行されており、事実ベースでデータを収集してチェックする手法を確立しなければならない」との見解を示した。
ライフスタイルの変化と包装の利用場面
消費者トレンドの面では、環境問題への関心が高まり反プラスチックの傾向が見られる一方、感染症を懸念する安全性重視の傾向からプラスチックが必要とされる場面もある。また、単身者世帯向けのポーションサイズ食品や調理済み食品が伸長していることから、電子レンジ用包材の需要が増加している。
商品の購入手段の面から見ると、食品の即時配送アプリの開発が投資機会となるなど、配送サービスの需要が高まっている。コロナ禍の巣ごもり期間に活用されたEコマースは、その後も活況を呈している。梱包・配送用パッケージには大きな機会が望める一方で、消費者のライフスタイルは全世界で急速に変化しており、要望される利便性に対してどのように対処していくべきかが生産者の課題である。
技術開発にはIT連携とリサイクルを期待
ITと連携するコネクティッドパッケージングが進展している。廃棄・リサイクルの場面では、デジタルトラッキングによってサプライチェーンが透明化され、必要かつ十分な量の原材料を調達する際に活用するなど、持続可能な生産・消費を最適化する取り組みが検討されている。
また、紙素材のパッケージはリサイクル性が高いことから投資する企業が多く、中でも最も多いのが菓子類のパッケージをプラスチックから紙へ移行する取り組みである。WPO 副会長のソハ・アタラ氏は、「プラスチックライナー処理をされた紙パッケージなども存在しているが、今年3 月に開催されたAnuga FoodTech(食品展示会)ではライナーを紙から分離する技術が紹介されていた。そうしたソリューションが存在していることなど、消費者に廃棄方法や処理方法の理解を促す正しい知識の提供が重要だ」とコメントした。
(JAGAT 丹羽朋子)
Jagat Info 2024年8月号より転載