このコーナーでは、世の中のトレンドに沿って新しい技術やマーケティングを中心に解説しているのだが、最近、特に若い方と話していると、「これくらいは知っておくべきだがなぁ?」と思えることが多い。
このコーナーでは、世の中のトレンドに沿って新しい技術やマーケティング(用語)を中心に解説しているのだが、最近、特に若い方(新卒で印刷会社に就職しても、印刷ワードに精通しているわけでもないし、印刷会社側も必要なこと以外はあえてこまごまと教えないのかもしれない?)と話していると、「これくらいは知っておくべきだがなぁ?」と思えることが多い。そのため、3分の1以下の分量をめどに「意外に知らない印刷ワード」についても解説していきたいと考えている(3分の2以上は新ワードの解説で)。私も終活モードに入っていて、若い方に、そしてこれからの印刷界にいろいろと託したいという気持ちが非常に強いということだ。
パントーン社のHexachrome
さて、今回は「広色域印刷」について、広い範囲で語ってみたい。広色域印刷の基本は、多色インキで再現色域を広げるのだが、東洋インキの「カレイド(Kaleido)」のように高彩度顔料を使用し(特にMの彩度が高いかな?)、CMYK4色でも広色域再現ができるタイプもある(DICには「湧き水」がある)。多色印刷で広色域を目指すタイプの基本は、CMYKにはない色ということでCMYK+RGBの7色印刷が基本であり、Hi-Fiカラー(印刷)とも呼ばれている。
しかし、色数が増えると印刷機の胴数も増えて高価になってしまうし(7胴以上の印刷機がないと印刷できない)、インキ代や手間暇も含めてコストも高く付いてしまう。そこで、色数を少しでも減らして、7色広色域再現と同等の効果が得られる多色印刷システムを各社が開発してきたのだ。なかでも有名なのが、パントーン社のHexachromeである。Hexa(ヘキサ)なので「6(色)」を意味している。従来のCMYKにO(オレンジ)とG(グリーン)を足したCMYKOGの6色印刷である。また、YOMインキには蛍光顔料が混ぜられており、パントーン社の長年のノウハウと相まって必要以上にインキが重なることもないので、高品質な色再現が得られるようになっている。もし重なっても色再現が損なわれないように、透明性や被覆力などが考慮されているのがプロセスインキなのだが、それでも重ならない方が色再現は良いことは言うまでもない。
言い方はちょっと「?」かもしれないが、パントーン社は「売れる色」をビジネスにしてきた会社だ。Hexachromeは論理的な色再現というよりも、「売れる色再現(?)」になっていると表現すれば、ニュアンスは通じるだろうか…。なお、パントーン社は実際にインキを製造・販売しているわけではなく、Hexachromeという規格を販売している。そのため日本ではTOKA製のHexachrome用インキが一般的かもしれない。
デジタル印刷機と多色印刷
デジタル印刷における多色は、色域を広げるという目的もあるのだが、ハイライト側の調子再現を改善するための多色印刷も忘れることはできない。アナログ印刷でも極ハイライトの1%, 1.5%, 2.0%, 2.3%と極最小点の正確な再現は安定再現が難しいので、インキ濃度を薄く、例えば10分の1の濃さ(イメージなので、あえて「濃度」という言い方は避ける)にすれば、10倍の大きさの網点で本来の小点と同等の再現が可能なわけだ。そうすれば10%, 15%, 20%, 23%で、1%,1.5%,2.0%,2.3%と同じ効果が得られることから、同じ印刷機能(デジタル印刷ヘッドや機構)のままでも安定してハイライトの調子が再現できる。
ライトMやライトCを通常のMやCと併用しているインクジェットプリンターは多い。ヘッドの数を増やせば多色印刷は可能なので、大判のポスター用プリンターなどでは10色を超えるものもある。だが、最近は「何でもかんでも多色」という風潮は影を潜めている。
また、インクジェットプリンターでは墨版の使い方も重要だ。新聞用のデジタル印刷機では、写真用と文字用で墨版を分けるということも行われている。私も多くの新聞(スポーツ紙や経済紙も)に関わってきたが、新聞は文字、特にスポーツ新聞の場合は青色の見出し文字にこだわりすぎて写真の調子までおかしくしてしまうことがある。例えばナイターの写真では、投手の顔がどうしても暗くなってしまい、苦労した。墨版も墨文字をハッキリさせるためにK版を盛ると、写真に影響が出てしまうのだ。そこで文字用の墨版(しっかり濃く印刷)と写真用(墨インキは調子を整える補助版用として使用する)に分けるのである。
最近のデジタル印刷は高品質なので、広色域を狙うというより差をつけようとして、パントーン社的な売れる色を目指しているようだ。蛍光ピンクや金銀などの加飾的な高付加価値多色印刷がビジネスにつながっているようである。
(専務理事 郡司 秀明)