マスター郡司のキーワード解説:パッド印刷

掲載日:2025年3月24日

現場を初めて見学

page2025が無事に終了し、page展で目立ったキーワードを本欄で解説しようかと考えていたものの、冷静に考え直してみないとその重要度は判定できない。そのため、今回は印刷業界用語だが、商業印刷や出版印刷ではなじみの薄い「パッド印刷」を取り上げてみたい。

私がパッド印刷に注目した理由は、ひょんなことからであった。東京23区の中でも、区のブランディング力を高めたいと思っている、ある区役所(千代田・中央・港区のようなメジャーな区以外)では、ブランド大賞を設けて表彰しており、産業育成の一助にしている。私は、そのブランディング選考委員に任命されてしまったのだが、その区には革製品関連の中小メーカーが多く、ブランド選定候補にはランドセルメーカーなどが多く見られる。選考委員名は伏せることになっているので、実区名はご勘弁いただきたいのだが、選定候補の中にパッド印刷を行っている会社があった。私も立場上、パッド印刷という方式自体は知っていたのだが、実際の現場にお邪魔するのは初めてだったのだ。

パッド印刷の仕組み

さて、パッド印刷(Pad printing)はタンポ印刷(Tampography)とも呼ばれており、平面的な画像を立体的な被印刷体に転写する印刷システムのことを指す。四大印刷方式(凸版・凹版・平版・孔版)で分類すれば、柔らかいシリコンパッドを転写(オフセット)ブランケット代わりに利用する「凹版オフセット印刷(グラビアオフセット印刷)」という形式に分けられる。平面画像がシリコンパッドを介して被印刷物に転写されるのだが、シリコンパッドが大きくかつ繊細に変形するため、被印刷体の形状が曲面で凸凹していても(ゴルフボールみたいに)、ある程度なら印刷できるのだ。ただし、画像の正確性や寸法、ひずみの均等性はそれほどでもないことは申し上げておきたい。パッド印刷は、販促グッズ・アパレル・医療機器・自動車・電子機器・電化製品・スポーツ用品(親しくしていただいている商業印刷会社は、新体操のグッズをパッド印刷会社に外注している)・おもちゃなどの通常の印刷が難しい被印刷体に使用されている。また、導電性インク・接着剤・染料・潤滑剤などといった機能性材料の積層にも使用できる。このようにインクの種類も多様なのだが、基本は溶剤タイプである。

パッド印刷で版材に載ったインクは、表面の溶剤が揮発してパッドに粘着しやすくなるが、インクがパッドに粘着してしばらくすると、パッドに粘着した方の面の溶剤がさらに揮発することでパッドから離れやすくなる。それと同時に、被印刷物に面したインクの下面の溶剤が揮発して粘着性が高くなり、被印刷物に粘着しやすくなる。版材としては、金属板にUV(光)硬化性樹脂を重ねてある版材が市販されており、それを使用するのだが、ポジフィルムを感材に重ねてUV露光する様だけでも懐かしい気持ちになってしまう。光硬化であるため、UV光が当たらない部分(画像部)は流されてしまい、凹部(印刷される画像部)となるのだ。

もちろん、立体グッズへの印刷となるとデジタル印刷の方がピンとくると思う。だが、デジタル印刷も生産性では難があり、100部を超えるとパッド印刷した方が生産効率は良いのである。身近な例では、電気炊飯器の釜に印刷されているメジャー(水量計)はパッド印刷のことが多く、意外なところに使われているのだ。

(専務理事 郡司 秀明)