付加価値というのはなかなかあいまいな言葉である。
私が担当する原価の「見える化」においては、売上から材料費や外注費などの変動費を除いた金額、すなわち限界利益に近い意味合いで用いている。GDP(国内総生産)は、「一定期間内に国内で生産された財(モノ)・サービスの付加価値の合計額」と定義されており、ここでの付加価値も同様の意味合いである。
一方で、お客様に購入してもらうために商品やサービスに何らかの機能や効果などを追加することを「付加価値をつける」という言い方をする。しばしばより高い値付けをするという文脈で用いられる。需要減少に直面している印刷業界では、後者の意味での付加価値向上が喫緊の課題となっている。
市場全体のパイが伸びないなかで、設備投資による効率化で価格競争に陥ることを元JAGAT会長の故塚田益男氏は「合理化貧乏」と呼んだ。
売価の設定の仕方にしても原価に希望する利益を乗せて決めるコストベースプライシングから、お客様が得られる価値をもとに決めるバリューベースプライシングへの転換が求められている。
しかし「言うは易く行うは難し」で、具体的にどうすればよいのか答えはなかなか見つからない、というよりもすべての印刷会社に共通する答え(施策)はそもそも存在しないだろう。考えるヒントを探すという意味で以前「厚利少売」という書籍を紹介する記事を書いた。
今回はそれに続き「このオムライスに付加価値をつけてください」 という書籍を紹介する。 同書によると「価値」には既存価値、付加価値、不要価値の3つがあるという。
既存価値:ないと成立しないもの、合格ライン
付加価値:なくても成立するが、あることが喜びや感動を生むもの
不要価値:なくても成立し、あってもうれしくないもの
価値を決めるのはあくまで提供側ではなく受け手側である。したがって、付加価値をつくるだけでは不十分で、つくった付加価値が相手に伝わらないと価値にはならない。著者は編集者であるが、編集の仕事を①付加価値を見つける、②付加価値を磨く、③付加価値を伝えるという3つのステップで定義している。
また、付加価値をつくることは商品やサービスだけでなく、人が生きていくうえでも役に立つ。例えば、就職活動で何社も面接を受けているのに落ちてばかりという場合、「自分は価値がない人間だ」と思ってしまうのは間違いであり、「自分は付加価値づくりが足りない人間だ」と認識すべきであるという。そのときに大切になるのは「ないものに視点を向けるのではなく、あるものを付加価値化していく」という考え方だ。自分の悪いところをみつけて悩むより、付加価値になるところを見つけてそこを磨くほうが、心にもいいし、人にも伝わりやすい。
おとなしいという弱みは内省的という強みに変換できるし、優柔不断という弱みは熟考型という強みに変換できる。このような問いかけを続けていけば、誰であっても自分の強みをつくることができる。
こうした考え方は営業活動においても有効だ。「どうして売れないんだろう?」という問いかけは、売れない理由を探すという思考となり、ダメなところを見つけることに意識が向かう。価格が高いから売れないのであって値下げしようというような考え方に陥りがちだ。そうではなく「どうしたら売れるのか?」という問いかけをすることで、売れるためのポイントを探すという思考となり、いままで気づいていなかった付加価値が見つかる。
同書では、付加価値をみつけるための視点がたくさん用意されており、自社の強みを考えたり、お客様の商品やサービスの強みを見つけたり、その強みの伝え方を考えたりするうえで多くのヒントが得られるだろう。
一例として「ある視点」というものがある。これは「予算が足りないからできない」「人がいないからできない」のように「ないもの」や足りないものに視点を向けるのではなく、実は気づいていないだけでそこに「あるもの」に視点を向け付加価値を発見するというやり方だ。「ある視点」を生み出すには、3つのことに注目するところから始める。それは、「当たり前と思っているもの」「”不”の視点でとらえられているもの」そして「心の中にある欲求」の3つであるという。
環境が悪くなるとついついネガティブに考えてしまうが、「ないもの」ではなく「あるもの」に目を向けてポジティブな視点でとらえ直すというのは、日常のなかでも意識していきたいと思う。
(研究・教育部 花房 賢)