人材は未来の知識と行動の源泉

掲載日:2018年8月2日


社員の自主性を尊重し、社員が自ら育つような社風をいかにつくるか。大きな転換点を迎えつつある人事評価制度の考え方について、プライムコンサルタント菊谷寛之氏の講演から抜粋。


世の中の仕組みや会社が置かれている状況が急激に変化し混沌とするなかで、未来を切り開くにはどうすべきか。未来をつくるための管理可能な経営資源は突きつめると二つになる。一つは未来の価値に投資する資金であり、もう一つが未来の知識と行動の源泉である人材である。したがって、人材マネジメントをどうするか、どのような人事評価制度をつくり、運用するかは非常に大きな経営課題である。
また、これから人口が減少して社会規模が小さくなっていく中で、単にコストダウンを進めれば業績が向上するという時代ではなくなっていく。今後は、いかに需要を創造していくかに経営の焦点が移ってくるだろう。環境変化に柔軟に対応できる自律的な人材の育成が求められているし、新しいことへのチャレンジを厭わない創発的な組織風土の醸成が欠かせない。働く人たちをいかに動機づけるか、成果を上げられるような機会を提供し、その機会に集中できるような環境を用意するか、結果として働く人の満足度を上げるような人材マネジメントが求められる。
残念ながら従来型の組織、人事管理は行き詰っている。経済成長が鈍化し、閉塞感があるなかで、従来型の管理を強化し、精緻な人事評価を行っても人材や組織の活性化は期待できず、変化への柔軟な対応やイノベーションの創発には至らないだろう。

「脱平成型人事」の提案

ではどうするか。答えは人間の力を信じるしかないと考えている。制度ありきではないアプローチとして「脱平成型人事」を提唱している。「脱平成型人事」の考え方では、社員の創造力や発想力を重視して、ボトムアップ型の自由闊達な組織風土づくりを目指す。失敗を恐れるのではなく、チャレンジすることを評価する。
そして、「学習する組織」がキーワードとなる。社員一人一人がレベルアップしてお客様の満足を実現し、企業のブランド価値を向上させる。それが社員自身の仕事のやりがいとなり、社員満足度があがっていく、このような好循環の経営を実現していくことが必要となる。
人事評価は社員の成長を助け、成長度を確認するものであって、インセンティブや罰則によって人を動かそうとしてはならない。直接的な成果報酬によりモチベーションを上げるのではなく、社員の内面的な仕事に対する動機、仕事に対する満足を開発していく。人を支援するという発想でキャリア支援していく。

実現のポイントは4つある。一つは「関係の質」の改善である。今は働く人同士が役割の違い、職制の違い、給料の違い、男女の違いなどでお互いに垣根を作ってしまい断絶が起こっている。一生懸命仕事に取り組んでいる人たちがいる一方で、自分たちは関係ないと後ろ向きの人たちがいる。これではクリエイティブな仕事はできない。 「関係の質」を変えるには具体的にはどうするのか。役割を与えて信頼と学習の“場”をつくる。自分たちが、より良い未来をつくるために、お互いに何をすればよいのかをよく話し合い、思いを共有する。すると「君がそういう行動をとるなら、私はこういう行動をしよう」というように自然に連携の取れた質の高い行動がとれていき、結果的に良い結果が生じてくる。
二つ目は「自己組織化」である。指示や規則ではなく自主性を尊重する。上から与えられる指示を待つのではなく、自分たちで仕事のやり方を見つけて、自分たちで仕事を開発するような風土をつくる。
三つ目は「対話」である。振り返りと探求によるビジョンの共有である。自己組織化すると放っておくとてんでばらばらに勝手なことを始める。そうならないように正しい方向に調整していく役割、機能が必要である。「みんな同じ思いで同じ方向に向かって同じ考え方で、こういう取り組みをしている」ということが、社員一人一人が納得して腹に落ちるようにする。これには対話が必要である。対話の機会を積極的に提供する。
四つ目は内面的な働きかけによる「キャリア支援」である。何か評価基準を設けて、それを達成するとインセンティブを与える。こうした外側からの刺激により、短期間で企業の成果を得ようというのが従来の人事評価であったが、それではうまくいかない。
例えば、成果給とは社員の成果に対する責任を明確にしたうえで目標を設定し、目標の達成度合い、遂行具合の評価により給料を払うという考え方である。一人一人の評価結果は自己責任であるという考えが強まった。
その結果、働く人たちの間に分断が起きて孤立感が深まって、仕事の協調や連携がうまくいかなくなるということが起こった。また、正規社員と非正規社員という賃金の階層構造が固定化されてしまった。
これらへの反省として、個人プレーヤーとしての成果主義ではなく、組織を挙げて成果を上げるように発想を変えていく。そして、成果ではなく人の成長に焦点を当てる。

人事評価というものを外面的な、外側から何か刺激を与えて人を動かそうという発想で構築するのではなく、社員一人一人の成長を助ける、あるいは成長度を確認するものとして発想を変えて考えていただきたい。

文責 研究調査部 花房 賢(Jagat info 2018年8月号より)

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代表 菊谷寛之
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