雑誌市場が縮小する中でメディアの価値を高める情報を届けるためには、編集力の強化、特に教養を磨くことが重要になる。(数字で読み解く印刷産業2018その7)
雑誌市場縮小の中であがいた『新潮45』の休刊
『印刷白書』では印刷業界だけでなく、出版業界、新聞業界、広告業界などに関する市場分析と関連資料を掲載している。出版物、特に雑誌の不振は恒常化していて、2017年の推定販売金額は6548億円(前年比10.8%減)と初の2桁マイナスとなった(出版科学研究所による推計)。金額返品率は43.7%で、半数近くの雑誌が返品されている。
雑誌市場の縮小は、出版流通にも深刻な影響を与えている。雑誌の輸送量の減少や、コンビニエンスストアの増加に伴う配送先の細分化・複雑化によって、運送会社や取次会社の経営を圧迫している。
このような状況下で、1985年創刊の総合月刊誌『新潮45』の休刊が9月25日に発表となった。
「ここ数年、部数低迷に直面し、試行錯誤の過程において編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていたことは否めません。(中略)
会社として十分な編集体制を整備しないまま「新潮45」の刊行を続けてきたことに対して、深い反省の思いを込めて、このたび休刊を決断しました」という。
9月18日発売号の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」に関して、「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」を掲載してしまったという異例の社長声明が9月21日に上がり、新潮社出版部文芸の公式Twitterには「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事(佐藤義亮)」と創業者の言葉がツイートされ、著名な作家たちからも批判が多数寄せられた中で、今回の休刊発表となった。
雑誌の強みはパッケージで伝えられることである。Webの記事は細切れのコンテンツになりがちで、メディアとしてのブランドが作りにくい。
WELQ事件(不正確な医療情報や著作権無視の転用が発覚し、まとめサイトの大規模閉鎖となった)では、DeNAは第三者委員会による報告書を公開したが、新潮社は『新潮45』を休刊してその後の雑誌を含めた路線をどう軌道修正するのだろうか。
経験と教養と器量を磨くことが重要
ソーシャル経済メディア「NewsPicks」は幻冬舎と共同で、書籍レーベル「NewsPicks Book」から新刊を毎月発刊し、さらに季刊誌『NewsPicks Magazine』を創刊した。紙メディアに進出した最大の理由として、ブランドの強化を挙げている。雑誌掲載記事の3分の1は新しいコンテンツだが、残りはWeb記事を再編集したもので、売上率は既に5割を超え、7割に達する見込みだという。
NewsPicksの佐々木紀彦CCOは、JAGATの夏フェス基調講演で、編集力の重要さ、そのために本を読んで教養を身につける必要性について熱く語ってくれた。
編集者が今の時代に必要なのは、予想以上に世の中は狭く、分断されているが、面白いことが溢れているので、それを紹介できる人たちの価値が上がっているという。
いい編集者には共通点があって、好奇心が旺盛で、普遍性と時代性の両方があり、長所より短所を重視する。編集力を磨くためには、経験と教養と器量を磨くことが重要になる。
スタンフォード大学の留学経験をまとめた『米国製エリートは本当にすごいのか?』によれば、1年間で300冊から400冊、学生時代最低でも1000冊の本を読んで、レポートしてプレゼンして、その上で先生やクラスメイトと徹底的に議論する。このような知の千本ノックによって、知的な体力が備わるのだという。
教養を磨くためには、①節約断ちして、遊びやアートを楽しむこと、②スマホ断ちして、きちんと読書すること、③ビジネス書断ちして、古典をしっかり読むことが大事である。
編集者は、もっと面白く、社会に貢献できてもっと稼げる仕事になる。そういう編集者が増えれば日本のメディア業界が面白くなる。今後、メディア業界は大きく変わるが、新しいことにチャレンジしたい人にとっては大きなチャンスである。
正解のない時代だから、とにかくまず動いてみる。動いたものが勝ちやすいという、明治維新や戦後復興のような時代と同じようなときなのではないかと、佐々木氏はやる気ある人々にエールを贈っている。
(JAGAT 吉村マチ子)
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