電子決済(デジタル決済)とは、現金ではなく電子的なデータをやり取りすることにより、商品やサービスの代金を支払うことである。ネットバンキングによる振り込みや電子マネーによる決済など普及がすすんでいる。
技術を駆使する決済手段
今年、アメリカシアトルのレジのないコンビニ(アマゾン・ゴー)が開業したことが話題になった。専用アプリをゲートにかざせば、あとは商品を取って店を出てOKだ。手の動きなどを天井にある多数のセンサーで読み取り、自動決済するのでレジが不要になる。店舗なのにレジが存在しないことに注目は集まるが、本質は消費者の購買心理の解析に役立つという。購入品目だけではなく、何と比較して購入に至ったのか、個人別に商品の競合(購入前行動データ)を見極められる。ECでは比較情報を得られたが、同様のデータを実店舗においても取得できるようになることは画期的だ。近い将来、消費者の表情も読み取り、商品を手にしたときの感情データも取得できるようになるという。
一方、消費者は現金を持ち歩くことや会計の手間が省け、店側も現金管理のコストが省ける。顧客データを活用できるので、インバウンド消費に生かしたり、サービス産業の人手不足解消にも効果がある。国内でも現金を取り扱わない店舗も出現しはじめている。そこでは、店員の作業負荷の低減や現金取り扱いのミス防止にも効果があるという。
しかし、日本国内の現金志向は根強い。家計消費支出に占める電子決済の比率は、アメリカ46%、イギリス69%、韓国96%に対し日本は20%しかない(国際決済銀行、2016年調べ)。治安や紙幣の完成度など国によって事情は異なる。中国も近年のスマホ決済の進化により、その電子決済比率は急伸している。日本政府も比率を2倍に引き上げる目標を掲げている。
給与もデジタルになるのか
毎月の給与も普及がすすむデジタルマネーで受け取る時代になるかもしれない。デジタルマネーとは、実際の紙幣を使わず電子データのみで処理する仮想貨幣である。
しかし、現状では労働基準法により「賃金は、通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」という原則が存在する。現在主流の銀行振込も例外扱いというのには驚きだ。この法律では賃金において、通貨払いの原則、全額払いの原則、直接払いの原則、毎月払いの原則、定期払いの原則という5原則がある。
そのような環境下、日本国内でもGMOインターネットグループが、従業員の希望に応じて、給与の一部をビットコインで受け取れる制度を開始した(厳密には給与の一部をビットコインで積み立てる)。また、LINEはLINE Pay Card Benefit Plan(12,000円/月)を設け、社員の福利厚生の一環として給与とは別に支給している。現在、労働基準法があるので、仮想通貨や電子マネーなどで給与全額を支払うことはできない。
一方、アメリカでは給与支払い用カード(ペイロールカード)が拡大している。日本でも、外国人は銀行口座の開設をすることが難しく、給与が銀行振り込みであれば外国人労働者が生活する上で不便が生じる。東京都では、企業がペイロールカードで賃金を支払うことができるようにする規制緩和を国に提案した。カードはATMから現金引き出しや買い物の決済などに使用できるため、日常生活が便利になる。とくに外国人労働者からのニーズが高く、外資系企業の誘致にも役立つとしている。
デジタルマネーは、安全性や破綻時の補償、利便性など課題も多い。しかし、これだけITが進んできた現在、給与払い1つとっても70年前の法律に縛られていて良いのかという議論は絶えない。魅力あるキャッシュレス社会の実現に期待したい。
(西部支社長 大沢昭博)
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