メディアビジネスに関わる印刷会社がおさえておきたいキーワードを解説する。
今回は「ビジネスモデルキャンバス」のその2応用編。
JAGAT 専務理事 郡司 秀明
ビジネスモデルカンバス(その2応用編)
Dscoopソウルで、朴貞子先生のミニMBAで説明されたビジネスモデルキャンバス(BMC)の応用例編だ。
一般例として「ケリーさんのレモネードスタンド」について説明する。BMC(ビジネスモデルキャンバス)の9つのセクションに「ケリーのレモネードスタンド」事例について、それぞれ付箋を付けてある(図1)。
右端のCUSTOMER SEGMENTだが、これは公園のレモネードスタンドだから、Park visitors(来園客)となる。一つ左のRELATIONSHIPSは、対象は個人(Personal)となる。CHANNELSは対面販売(Booth sale)が基本だが、ウェブサイトも始めているので、インターネットで見つけて、ケリーのレモネードを求めて来園してくれるお客もいるかもしれない。ケリーのレモネードスタンドの価値(真ん中のVALUE PROPOSITION)は何だろうか? これは「持ち帰りできる冷たくて新鮮で自然な味(Cold tasty natural lemonade on-the -go)のレモネード」を売りにしている。主要な活動(KEY ACTIVITIES)の第一はレモネードを作ること。それにマーケティング、この場合はチラシを指しているらしい。そして売ること。左から二番目のKEY RESOURCES(経営資源)は、一つはIngredients(成分)レモネードの成分である。隠し味的な企業秘密もあるだろうが、どんなレモンを使うか? 原材料も大きいポイントだ。更にSales people(売る人)とBooth & equipment(ブースと設備・器材)。KEY PARTNERS(パートナー)はケリーさんのレモネード店の場合は、公園にあるのでMunicipalities(地方自治体)としている。
COST STRUCTURE(コスト)は、レモネードの成分(Ingredients)であるレモンや原材料、調味料のコストがあるだろう。更に設備・器材(Equipment)と従業員の給料(Salaries/commission)がある。またチラシ(Flyers)代もコストだ。収入はレモネードの販売料金(Lemonade sales)とチップ(Tips)も入ってくる。これが「ケリーのレモネードスタンド」のビジネスモデルキャンバスである。BMCの使い方は分かっていただけたと思う。
BMCの中でも一番大切なのがVALUE PROPOSITION(価値)である。朴先生も力説していたのは「総合的な価値が重要である」ということであり、印刷業界では誤解されている方も多い。こんなに素晴らしい品質の印刷物を作ったのだから、これだけ価値があるということではなく、美術的に価値を見いだすためには、美術本の装丁も重要だし、頁立ての工夫も必要である。例えば最近話題の小学館版運慶写真集は、ところどころが観音開きになっていて、それを開くと原寸大の写真が見られる。その写真集の価値を上げるためのSNS活動等のマーケティング活動も必要になってくる。最近は印刷通販でさえ、マーケティング支援をビジネスにしているくらいで、印刷ビジネスとは印刷物を作るだけがビジネスではない。その印刷物を使ってどれだけ販売実績が上がったか?がポイントだ。印刷通販でも、年賀状印刷なら、宛名まで印字したり、投函サービスや忌中ハガキサービスまでビジネスにしたりしている。私は印刷通販で宛名まで印刷してもらい投函サービスはせずに家に送ってもらい、手書きをプラスして自分で投函している。とにかく総合的なサービス価値が必要である。中国はここが足りないと朴先生は力説していた。日本はこの段階を超えているのだから、印刷ビジネスも欧米並み(以上)に頑張れると信じている。
2番目に、「なぜお客様が買うのか、誰が買うのか」という点である。3番目は販売チャンネルだが「代理店販売にするのか、直接販売するのか」ということだ。このように、現在の印刷ビジネスを考えたときに一番重要になってくるのが、印刷ビジネスの価値をどのようなところに持っていくかということで、ビジネスモデルキャンバスを使って分析すれば、この辺がよく分かると思う。価値まで考えるとデジタル印刷の使い方がポイントになると思うのだが、いかがだろうか。
図1 レモネード店例
(会報誌『JAGAT info』 2018年8月号より抜粋)