デジタルコンテンツで切り開くDTPの未来

掲載日:2015年1月6日

page2015セミナーの講師折衝で伺ったこぼれ話を紹介する。2月6日(金)『印刷をサポートする「電子コンテンツ」新活用術』より。

page2015セミナーでは5つの柱をテーマとしている。「経営マネジメント」 「営業/マーケティング」 「印刷ものづくり」 「ソリューション」 「ワークショップ」 だ。

上記の講師折衝のなかで伺ったこぼれ話をいくつか紹介したい。今回の講師は経営に携わる方が多い。共通しているのは、強い意志、明確なビジョンを持って事業に取り組まれていることと印刷業界を良くしたいという思いである。

まず、『印刷をサポートする「電子コンテンツ」新活用術』で講演いただくベンティクアトロの代表取締役社長の石井千春氏の話から紹介する。

石井氏は、グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートされ、いち早くDTPを導入し、Macのパワーが貧弱で出力環境も不安定な頃に大判のチラシの制作をDTP化したという実績がある。当時、その事例をJAGATのセミナーでご紹介いただいたこともある。

現在は、Adobe DPS(Digital Publishing Suite)を利用したデジタルコンテンツ制作をメインに取り組んでいる。いわゆる電子書籍ではなく、量販店での接客ツールやインタラクティブなサイネージのコンテンツを主に作成している点がユニークである。

石井氏自ら、印刷業界に情報発信したいとJAGATにコンタクトしてきたことが、今回、講師をお願いすることになったきっかけとなっている。その背景には、現在のDTP制作の現場をなんとかして活性化させたいという強い思いがある。

石井氏曰く、昨今のDTPオペレータのモチベーション低下に強い危機感を覚えているという。営業はお客さんの言いなりで、理不尽な修正依頼でも言われるがまま受けてしまう。
そうなるとデザインへのこだわりもあったものではなく、DTPオペレータが単なる作業者になってしまいヤル気が失われてしまう。

その結果、新しい事を勉強したりチャレンジすることがなくなる。上司からチャレンジを進められても、これ以上残業を増やしたくないという予防線も含めて「私、○○しかできません」という反応となる。

すると経営者層は「うちのDTPチームは能力がないからデジタルコンテンツ制作なんてとても無理」と判断してしまう。それでいて「DTP制作は儲からない」とただ嘆いている。
石井氏が知り合いの印刷会社にデジタルコンテンツの制作を勧めても、こうした反応となることが多いという。この悪循環をなんとか断ち切りたいという思いがある。

また、能力がない、やる気がないというレッテルを貼る前に、最低限、DTPオペレータが良い仕事をしたときはほめる。たまにはお客様のところに連れて行って直接話を聞かせるくらいのことはしてほしいという。

AdobeのDPSの良いところは、新たな高額の設備投資をすることも一からのスキル習得も不要で、既存のDTP環境の延長線上で取り組めることである。印刷物のためだけのDTP制作から、同時にデジタルコンテンツも作れて、それがたとえ5万円でも値段がつけば、その分、付加価値が向上し会社経営にも貢献することになる。

「DTPは儲からない」と言われ肩身が狭い思いをしているDTPオペレータも元気がでるし、クリエイティブな仕事をしているという喜びも生まれるだろう。当然、グラフィックデザインとは別のデザイン能力、二次元ではなく構造的に情報をデザインする能力が求められ、いままで使わなかった頭をすごく使うことになるが、クリエイティブな喜びがあれば乗り越えられるはずだ。

また、デジタルデバイスに適した形で、情報をデザインできるという能力は今後、印刷会社にとって大きなスキル、差別化要素になるはずだ。そして、その能力を発揮するには、お客様の業務への深い理解とコンテンツ(情報)が必要となる。

それは、印刷会社がすでに持っているものであり、IT業界や広告代理店などの異業種と比べ、非常な有利な立ち位置にいることは間違いない。

一方で、実際にDPSで制作する際、多少応用的なことをしようとすると、なかなか情報がないというのも事実である。英語のサイトを調べることも多い。

今後は、これまで培ったノウハウを積極的に開示して共有していきたい。そうしてプレーヤーが増えることでマーケットも拡大し、より活性化していくだろう。

JAGATとしても、情報交換の”場”をつくるような活動を行っていきたいと考えているので、関心のある方は是非、pageセミナーに参加していただきたい。

ちなみに石井氏の営業スタイルは、お客様の注文を受けてから制作するものではなく、例えば店舗案内パンフの印刷用デザイン終了後、その素材をもとにインタラクティブな機能を設定した完成度の高い電子コンテンツを制作、これは便利!使える!を実感してもらうため実機で、プレゼンをするというもの。

その理由は電子出版の経験のないクライアントには難解になりがつな企画書だけではその価値が伝わらず、コストに関しても全く判断ができないからである。

この事例に限らず、最近ビジネスが好調な印刷会社の特徴は、サンプルづくりが早くてうまい、ということを耳にする。

そして、制作作業のコストを買ってもらうのではなく、「効果」を買ってもらうことがポイントである。それを忘れてしまうと「頁単価いくら」という価格競争に再び陥ってしまうことになる。(CS部 花房 賢)

●関連情報
page2015
2015年2月6日(金)10時~12時
印刷をサポートする「電子コンテンツ」新活用術
http://www.page2015.jagat.or.jp/contents/session/36