モノが売れない時代にどうやったら売れていくのか。アクセスログの情報が容易に収集できるようになり、ビッグデータが注目されている。
「ビッグデータ」って必要か?
データ分析をマーケティングや経営に活かそうとする動きが今まで以上に盛んになってきている。企業が取得できるデータはこの数年で確実に増えている。代表的なものがPOSデータで、コンビニやスーパーが顧客行動分析をしている。またamazonなどが顧客情報解析によってレコメンドを行っている。
その昔(といってもたかだか10数年前)には、データマイニングが流行って、回帰分析やらクラスター分析、多変量解析などよくわからないのに調べた経験がある。
当時は、データウェアハウス製品が高額で、しかもとても素人が扱えるようなものではなかった。ところが最近は、大量データをリアルタイムに処理できるソフトウェアが登場してきている。また特別に高価なソフトウェア製品を購入しなくても、Excelレベルでも十分解析ができるようになってきているはずだ。
しかし、何が何でもデータをかき集めればいいというものではないだろう。そもそも「ビッグデータ」は印刷産業に必要なのだろうか。例えば、印刷会社でもスマホを使ったアプリを開発している企業には、マーケティング情報として理解できるが、それ以外の会社ではどう扱っていいのだろうか。
身近なビッグデータ事例
JAGATの建物は自社ビルで、駐車場もあるが、普段はあまり利用されていなかった。また、休日の違法駐車も問題だった。そこで遊休資産の活用の意味もあり、現在は有料駐車場「タイムズ24」として運営している。近所にマンションの建設工事現場があり、その車両が連日止まっている。
タイムズを全国展開するパーク24では徹底的なマーケティングを行い、どの駐車場も適切な稼働率が保つように料金体系を日時や場所によって変動させている。当然効果測定もしっかり行い、そこでまた価格が変動していくこともあるという。
JAGATの前にある駐車場も実はネットワークでつながり、リアルタイムでデータを把握分析しているとのことである。稼働状況の分析だけでなく、カード決済やポイントサービスなど顧客視点も忘れていない。おそらく工事が終わった後の稼働状況も予測しているに違いない。
どのようなことが可能か
『印刷白書2014』では、印刷産業の経営課題の一つとして「データサイエンス」を取り上げた。著者のデータセクション橋本大也氏によると「データサイエンティストとは、統計・ITの専門知識を武器に、データを分析しビジネスに活用するための知見を引き出す人材である」としている。しかしながら、これではあまりにハードルが高すぎて自社とは無関係と思いがちである。
『印刷白書2014』でも「課題はデータサイエンティストの育成」とある。そう簡単にいかないのであれば、印刷会社でも社内で人材を育てるよりも専門家と手を組んだほうがいい気がする。現実問題として、1社ですべて完結するよりネットワークを使って、幅を持たせるほうが得策だろう。
一般のビジネスパーソンがデータ分析のマーケティングを始めようと思ったらデータによる量的変化を的確にとらえること、そしてそこから変化していく市場の姿を見つけることに絞ったほうがいい。
蓄積されたデータのほかにもオリジナルの調査データ、口コミデータ、公的機関が発表しているオープンデータなど複数の数字を使って分析していくほうが効果的なのだろう。そして、ここ数年のトレンドである「消費者視点」を絡めて注意点を抽出することではないだろうか。
企業の事業形態によって、データの収集法や活用法は変わってくるし、そこはきちんと見極めないといけない。パーク24の事例と小売業では当然違ってくるだろう。メーカーの場合もエンドユーザーの直接的な声を集めることが容易にできるようになったのは、デジタル化のおかげである。位置情報も加われば、あらゆる機会を逃さないで訴求することも可能になってくる。
『あの夏、サバ缶はなぜ売れたのか?』の大木真吾氏は、同著の中でデータ分析の流れを
①意思を持つ
②可視化する
③翻訳する
④アクションする
ことになるとし、「目標の設定、仮説の構築」をすることが第一歩であるとしている。
つまりデータを活用して、「何がしたいのか」の戦略を明確にしないと分析する意味がないのである。そのためにはもちろん文脈が必要になってくるし、消費者(生活者)の購買パターンを把握して、ペルソナを設定し、仮説検証するといったごく当たり前の一連の業務が重要になってくる。
モノが売れない時代にどうやったら売れていくのか。これまでとは違う「なぜ選ばれるのか」の視点で考えていかないとビジネスを見誤る危険性がある。既存産業の既得権益そのものが守られていた時代は終焉を迎えたことを直視すべきではないか。黙っていれば仕事量は減っていくし、他の業種に流れていくおそれだってある。
ジョー・ウェッブ博士もJAGAT大会2014で、「多様化するメディアのマネジメントをすることも印刷産業の重要な役割になってくる」といった話をしていた。
データを使って、消費者の動きを知ることは、これからのビジネス展開には不可欠な要素なのである。印刷会社にとっては、顧客と一緒に販促を考えることができるのは、間違いなく自社の優位性を担保することになるのである。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)
●関連情報
ビッグデータやデジタルマーケティングは、page2015カンファレンスでも取り上げます。
2015年2月4日(水)15:45-17:45
【B2】消費者視点によるデジタルマーケティング最前線~行動解析でビジネスを広げる~
2015年2月6日(金)13:00-15:00
【B3】データの可視化で実現するコミュニケーション構築~ビッグデータ活用法
※B3セッションでは、文中で触れた橋本大也氏、大木真吾氏が登壇します。