印刷需要の減少に顧客接点となる営業はどう立ち向かうべきか。連載第三回目 営業パーソンの「思考の見える化」について。
…眠れる需要はそこにある…
「印刷営業の見える化」シリーズ 第3回 営業パーソンの「活動の見える化」
もう一つの見える化「活動の見える化」について
前回、最営業パーソンの「思考の見える化」について提案した。連載の最終回となる今回は、2つ目の見える化である営業パーソンの「活動の見える化」について考えてみたい。
営業パーソンの思考の特性は、日常の活動に現れ、結果として顧客との関係性や業績につながると考えられるので、個々の営業パーソンは無意識に、”やりたいことをやり”、”やりたくないことをやらない”で日常を過ごしている。しかし会社としては、お客様に対して、”やるべきことをやり”、”やるべきではないことはやらない”ようにしてほしいはずだ。
活動の素となる「思考の見える化」と、その結果である「活動の見える化」の両面を明らかにすることにより、人材育成と企業価値向上につながり、結果持続可能な成長の道が拓ける。
活動の見える化のための「アクティビティ調査」とは
「アクティビティ調査」とは、日々の営業パーソンの活動を記録し分析するものだ。
営業パーソンの行動分析をするために、例えばグループウェアやSFA(セールス・フォース・オートメーション:ITを活用し営業活動を支援するシステム)等を導入し、日々の営業活動をトレースしている企業もあるとは思うが、そもそも中小企業では導入費用や運用実践力などの面、さらに営業パーソンの消極的拒否反応等から、多くの企業では上手な活用が難しい面もあるように見える。
しかし前回述べたように、営業パーソンには個々に思考特性(クセ)があり、結果として、無意識に行動特性として表れ、顧客担当者の思考特性(クセ)などとの相互作用により結果(売上の増減)が出る。
つまり、思考のクセは行動に表れ、それが結果となって現れるわけである。その行動を明らかにするために、最低1カ月間、できるだけ負担の少ない方法での行動記録によるアクティビティ調査を提案する。アクティビティ調査自体は簡単で、営業パーソンの活動をマークシート方式のシートに1日1枚記録するだけ。シートは9分野14項目からなり、そのシートを読み取るだけで1カ月の行動をデータ化することができる。事前に自社の優秀な営業パーソンを選出しておくことで、優秀者との行動の比較もできるようになっている。
「アクティビティ調査」によって見えるコト
いろいろな考え方があり、個々の会社によって重視している活動は異なると思われるが、営業パーソンの活動において普遍的で共通している重要な活動は「顧客接触時間」である。われわれが提供する「アクティビティ調査」でも、”顧客接触時間”と”顧客非接触時間”に分けて営業パーソンの行動を見える化する。
「顧客接触時間」こそが、仕事を生み出すためには最も重要であると認識していながら、近年は「企画提案関連業務」、「業務打ち合わせ」など接触前の準備時間が増え、”顧客接触時間”が減少する傾向にあるように思える。しかも受注が確定してからの「進行管理業務」も、納期・コスト・品質要求の高まりにより対応負荷が増し、さらには社内用資料、報告書作成など営業パーソンの負荷は高まるばかり。
営業パーソンの活動状況が会社に”見えていない”と、顧客接触時間を増やすことはできないし、顧客接触内容を高度化すること、そして競合他社との差別化と顧客へのソリューション提供のための組織的支援をすることも難しい。見える化することで改善改革を進めることが可能になるわけだ。具体的に、アクティビティ調査で明らかになることは以下の通り。
[調査から見えるコト]
・顧客接触時間と顧客非接触時間と割合
・9分野14項目の活動時間と割合
・優秀者との比較データ(全体比較と14分野ごと比較)
・営業部全体の活動状況
「アクティビティ調査」の結果は、さまざまな活用が考えられるが、A君の顧客非接触時間が他者より多い原因は何か?顧客接触時間を増やすために会社として何ができるか? 成績優秀者のC君の思考特性(クセ)と行動特性のポイントなど、各検討材料をはじめとする、各営業パーソンの改善、強化・高度化のために必要なデータを提供してくれる。
さらに、ハーマン脳優勢度調査による「思考の見える化」と付け合わせることにより、B君の成績低迷の原因、個々の営業パーソンに合った営業力強化/指導育成ポイント、重要顧客に対する担当割り当ての最適化など、多くのことが見えてくる。
そして、現有資源(現在の営業部隊の能力)の最適な活用方法と、今後自社に必要な能力や不足している人材タイプなどが明確になるのだ。
2つの「見える化」が新たな成長のはじまり…
初回にも書いたように、”目に見える印刷需要”は外部環境の変化を考えると、今後増加する理由を見つけるのが難しく、少しずつ減少していくことになるだろう。
このような環境下で、印刷事業をビジネスのベースにしているわれわれが、持続可能な事業を展開していくためには、まず自社の成長戦略の青写真を描かなくてはならない。誰(顧客・市場)に、何(どのような価値のある製品・サービス)を、どうやって(他社より優れた自社の能力を駆使して)提供していくのか…というドメイン(事業領域)を明確にしなくてはならない。
未来に向けての自社のドメインの実現のために、人的営業機能の高度化が必須ならば、「営業の見える化」は不可欠である。
顧客接点での関係性強化とソリューションの提案による、”見えない需要や満たされない需要”への対応による受注づくりのため、組織として持つ能力を顧客接点で最大限展開できる営業パーソンの育成が急務の課題となる。
従って、顧客接点で自社の営業パーソンは、どのような活動をしているのか? 営業パーソンはどんな能力を保有しているのか? その能力は顧客に必要とされているのか? 会社として必要な意識付けと能力開発はしているのか?等々、これまで聖域としてきた営業パーソンの意識と能力と活動という、手付かずの領域に目を向け、支援と管理を実施していかなくてはならないだろう。
これまで見ようとしなかったコトを見える化することが、新たな成長の始まりである。
田中 信一(株式会社ビジネスコミュニケーション研究所 代表取締役)
★お知らせ★
page2015で田中信一氏が登壇します。
2015年2月5日(木)10:00~12:00
「営業の見える化」から始める高収益への道
http://www.page2015.jagat.or.jp/contents/session/30
田中信一
株式会社ビジネスコミュニケーション研究所 代表取締役
【プロフィール】
■(社)日本経営士会認定経営士
■(社)全能連認定マスター・マネジメント・コンサルタント
■ハーマンモデル認定ファシリテータ
1956年生まれ、福井県出身。専修大学経済学部経済学科卒業後、株式会社桜文社(印刷業)入社。印刷営業や制作ディレクションを経験後、1989年に株式会社ビジネスコミュニケーション研究所設立。
印刷産業を中心に全国で講演、営業関係研修、コンサルティングを行っている。指導内容として「営業活動支援コンサルティング」「中・長期経営計画および年度経営計画の策定・実施コンサルティング」「営業管理職再生講座」「プロジェクト管理術」「営業革新」「業態変革」など多数。
■著作
『消費・商品トレンド93-94』船井総合研究所刊(共著)、『こころときめく営業楽(学)1,2』日本印刷新聞社刊、『創注営業 実践バイブル』他がある。