印刷会社は成長するインバウンド市場とどう向き合うか

掲載日:2015年1月26日

訪日外国人旅行者が史上最高を更新、インバウンドで沸き立つ業界が現れ始めた。インバウンドの課題を、印刷会社はコミュニケーションサポート業として、地域活性の延長線上としてチャンスにできるのか。先進的に取り組む印刷会社2社と流通1社の3社に聞く。

印刷業界と同様に縮小していた百貨店業界が3年連続成長

外国人旅行者を日本国内に誘致する意味のインバウンドと呼ばれる市場が急拡大している。印刷市場と同様の衰退曲線を描いてきた百貨店市場は、既存店売上高が3年連続上昇と息を吹き返した。2014年の免税品売上高は約倍増、少子高齢化による売上高減少分を外国人売上高で完全に補った。

印刷業界と百貨店業界の市場規模推移は酷似していることが知られる。構造不況の印刷業界においても、構造不況を克服しつつある百貨店業界の取り組みは参考になる。現在、百貨店を始めとした小売店は訪日外国人旅行者との店頭コミュニケーションにおいて、多くの課題に直面している。

印刷業界としてもこれらインバウンドの課題解決はビジネスチャンスになる。ただし、特に地方の印刷会社にとっては、いくら我が国のインバウンド市場が成長しようが、訪日外国人旅行者が自分の地域に来なければ意味がない。従って、地域に訪日外国人旅行者を呼び込むような独自の地域活性策の立案に、印刷会社が関わっていくことが成長市場を自ら創るうえで必要になる。

百貨店と印刷業

印刷白書2014』 62ページ、図表2-37.1955年~印刷産業出荷額と百貨店売上高

店頭での外国人旅行者コミュニケーションでは印刷物も活用

訪日外国人旅行者数は2013年に初めて1000万人を突破、2014年は1300万人と史上最高を更新した。訪日外国人旅行者の多くが感じる不満は、無料無線LANの不足・コミュニケーション・目的地までの経路情報の入手など、情報・コミュニケーションに関する項目が多い。

パルコ(東京・渋谷)は、主要都市部で外国人売上高の構成比が高まっている。特に渋谷パルコの知名度は国外でも高く、外国人旅行者の人気となっている。国内19店舗3000ショップの運営を通じ、訪日外国人旅行者とのコミュニケーションの標準化、彼らが情報発信しやすい売場環境づくりを進めている。

百貨店など商業施設・小売店の店頭は、日々、外国人旅行者との接点になるため、その課題はより直接的だ。しかし小売店の店員は多忙であり、複数言語を学習するような時間的余裕は現実的にあるはずがない。そこで先進的な小売店は、店員と外国人旅行者との頻出会話を分析して標準化、複数言語分の印刷物を用意、店員に持たせて外国人客とのコミュニケーション円滑化に役立てている。このような多言語打ち分けニーズではデジタル印刷物の出番も考えられる。

インバウンドに先進的に取り組む印刷会社の実際

B2換算で年間11億枚のチラシを印刷するシーズクリエイト(大阪)は、主要拠点を置く八尾と奈良に外国人旅行者を呼び込む活動を展開している。その取り組みは1社から始まり、現在は行政などの賛同も得て、地域を挙げての取り組みに発展した。二ヶ国語フリーペーパー”naranara”なども知られる。オフ輪保有企業のこうした取り組みは意外に珍しく、参考になる。

石田大成社(京都・東京)は、2014年春に立ち上げたインバウンド支援事業への反響が大きいという。海外15拠点・50言語への翻訳能力もさることながら、相手国の文化的理解を踏まえた細やかな日本情報発信のできることが評価されている。同社はたとえば”Madoo Japan(タイ向けFacebookページ)”など東南アジア4ヵ国語で日本文化を発信している。日本文化をそのまま翻訳発信すれば良いというものでなく、たとえばイスラム圏向けの場合、豚肉に関する情報は前もって自制するなどの文化的・宗教的配慮に関する助言ができるかも鍵となる。

(JAGAT研究調査部 藤井建人)

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[パネラー]石田大成社 代表取締役社長 阿部乙彦氏
       シーズクリエイト 代表取締役社長 宮城正一氏
       パルコ・シティ 代表取締役社長 川瀬賢二氏
       JAGAT 研究調査部長 藤井建人